煙石博元中国放送アナの無罪判決ニュースに対する所感

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2017-03-15社会・時事

Activedia / Pixabay

3月10日、最高裁は煙石博元中国放送アナが窃盗罪に問われていた事件で無罪判決を出しました。

事件の概要は、以下の通りです。
被害者が銀行に6万6600円を置き忘れたところ、戻ったときには封筒しか残っていませんでした。
そこにたまたま居合わせたのが煙石氏。

この事件の最大のポイントは、状況的に窃取可能と考えられた人物が煙石氏しかいなかったこと。

容疑者が一人しかいないのですから、争う余地もありません。
現実に地裁・高裁は執行猶予つきの有罪判決を出しました。
今回の最高裁判決は、そうした逆境の中で煙石氏が勝ちとったものです。

元々、本件事件は地元広島でも冤罪の可能性が高いと言われていたものらしいです。

なんせ封筒から指紋が出てきていないのですから……。
被害者女性の証言の信憑性が疑われ、最高裁が認めた形となりました。

煙石さん、おめでとうございます!
そして久保先生お疲れ様でした!

本記事では本判決に対する私の見解を記します。

本判決について思うこと

判決文

Card

判決のポイント

1.防犯カメラに映っていた煙石氏の行動から窃取行為が認められない

以下、判決文からの引用です

ア 本件支店内の被告人の様子は,防犯カメラによってほとんど漏れなく記録されている。被告人が1回目に本件記帳台を離れる際,本件記帳台の上面から何かを取り上げたように見えるものの,それが記入済みの払戻請求書や預金通帳ではなく,本件封筒であるとは確認できない(なお,取り上げた物が何であるかに関する被告人の供述には変遷があるが,いずれも記憶に基づく供述というよりは,防犯カメラの映像上何かを取り上げたように見えることについての弁明というべきところ,そのような弁明に変遷があるからといって,取り上げた物が本件封筒であるとの推認が可能になるわけではないし,直ちに被告人の供述全般の信用性が損なわれるわけでもない。)。また,被告人が本件封筒を持ち歩いている場面や,その中から内容物を取り出す場面も確認できない(被告人がズボンの右ポケットに手を入れたり,シャツの左胸付近に何かを接触させたりする場面は確認できるものの,それが,本件封筒やその内容物をポケット等に出し入れする動作であるとは確認できない。)。そして,被告人が,本件記帳台に本件封筒を戻す場面も確認できない。

簡単にまとめると、

煙石氏の取り上げたものが本件封筒とは断定できない。
煙石氏が本件封筒を持ち歩いたり内容物を取り出す場面も確認できない。
(取り上げたのが本件封筒なら当然に)記帳台へ戻す動作があるはずだが、映っていない。

……地裁と高裁ってアホなんですか?
実際の画像を見ていないから何とも言えませんが、そこは論理的に導けるはずでしょう。
むしろ無罪の証拠じゃないですか。

イ 本件封筒には,三つ折りの振込用紙2枚が在中していたところ,これを残して現金(Bの証言を前提とすれば紙幣12枚と硬貨2枚)のみを抜き取るには,複数の動作が必要であり,相応の時間を要すると考えられる。本件支店内に設置された防犯カメラは,毎秒1コマを記録する目の粗いものであり,かつ,被告人がATM機の前に立っている時間帯については,背後からの映像しかないものの,被告人がそのような動作をしているように見える場面は存在しない(原判決は,被告人がロビーとATMコーナーを往復する際の動作の一部や,ATM機を操作している際の被告人の手元等が防犯カメラの死角となっていることを指摘して,被告人には本件封筒から現金を抜き取り,これをポケット等に隠す機会があったと認められる旨説示するが,被告人がそのような動作をしているとみられる場面を具体的に指摘するものではない。なお,被告人が,本件支店内の防犯カメラの設置位置や死角を熟知していたと認めるべき事情はうかがわれないのであるから,たまたま防犯カメラの死角となる位置で現金を抜き取るなどした可能性を否定することはできないにしても,その可能性が高いなどとはいえない。)。

簡単にまとめると

本件封筒から現金のみを抜き取るには手間と時間が掛かる。(そうであればカメラにその様子が映っているはずだが、)そのような動作をしている場面はない。
煙石氏がカメラの設置位置や死角を知っていたという事情がない以上、カメラの死角を利用して抜き取ったと解するのは無理がある。

死角についてはある程度その場で判断できると思います。
防犯カメラの画像を見ていない以上、この箇所は私に何とも言えないものがあります。
ただ封筒から現金だけ取り出して、また戻す。
防犯カメラは、それが映っていないとおかしいだけの撮影範囲だったのでしょう。

ウ そもそも,銀行に防犯カメラが設置されていることは公知の事実である上,行員や来店客の視線も意識せざるを得ない状況の中,本件封筒を窃取した者がいるとしても,わざわざその店舗内で本件封筒から現金を抜き取り,封筒だけを本件記帳台に戻すような行為をするとは考えにくい。被告人は,本件記帳台を離れてから預金の払戻しを受けて退店するまで,10分近く本件支店に滞在しており,そのような危険を冒すとは一層考えにくい。

簡単にまとめると、

銀行のATMに監視カメラがあるなんて誰でも知っている、それなのにお金だけ盗んで封筒を戻すなんて考えにくい。
煙石氏はATMを離れてから10分近く銀行に滞在している。

ここが決め手じゃないかと思います。
普通盗むなら、封筒ごと懐に入れて持ち逃げします。
だって、戻す理由ないでしょう。
手っ取り早いし、素手なのですから指紋ついた証拠残すことになりますし。
そして店をすぐさま離れるのが通常人の合理的な行動でしょう。

もちろん抜き取っておいて堂々と店内に滞在する人がいることは否定しません。
でもそれは窃盗の常習犯で場馴れしたパターン。
煙石氏はそうじゃないわけですし。

2.被害者の女性の証言に疑いの余地がある

長いので省略しますが、一言でまとめると次の通り。

最初からお金が入っていなかった可能性がある。

嘘をついているというより記憶の混同とか勘違いの可能性を示唆しています。

6万6600円となればそれなりの重さになるから気づかないのはおかしい。
これは原審の判断ですが、封筒単独だけ持ち出すなら確かにそう。
しかし他の物もあわせて持ち出しているなら、相対的に封筒の重さは軽くなります。
気づかないこともあるでしょう。

最高裁は、次の通り述べています。

原判決の認定によれば,Aは,通帳及び固定資産税の冊子と一緒にされた束の中から,相応な重量と厚みのある本件封筒だけを本件記帳台に置き忘れたことになる。その可能性の方が,現金の入れられていない封筒を持参した可能性よりも高い,などとはいえないであろう。

もう完全に皮肉です。

私の見解

判決について

最高裁の判決には無理がないと思いました。
普通の人が話を聞いて当たり前に考えることを論理的に説明しただけです。

警察・検察が煙石氏を犯人としたのは一見して合理的な判断に見受けられます。
盗まれた以上、犯人は絶対にいる。そして一人しか、その候補はいない。だったら煙石氏が犯人だ。
でも、その前提には「封筒にお金が入っている」必要がある。
万引きなら商品は陳列されているし、それも映っているから、こうした前提を考える必要はない。
しかしこうした置き忘れであれば、お金が入っていない可能性もありますし、最悪の場合は被害者の狂言ということすらあります。

私も刑事ではないにしろ、元治安関係者。
心情的には警察・検察は被害者の側に立って当然だと思いますし、責めたくありません。
しかし刑事にしろ公安にしろ、人間が性悪であることは重々承知していますし認めないといけない仕事。
何よりも客観性が求められ、被害者を信じるなら信じるだけの裏付けがないといけない。
それが仮に親や恋人であっても鵜呑みにしてはいけない仕事のはずです。
逮捕や起訴そのものは仕方ない。
でも「お金を入れたのは間違いない」、という被害者の言い分。
そこで止まってしまって鵜呑みにし、ストーリーを描いてしまったことは軽率の謗りを免れないでしょう。

責められるべきは警察・検察ではなく裁判所だと思います。
最高裁の言い分は通常人しての合理的判断を基礎としていますから、煙石氏が異常であったとする批判はなしえます。
しかし物証についても監視カメラから見て、やっているように見えないという。
それがどうして最高裁まで行ってしまうのか。

最高裁の判決文を読む限り、広島地裁と高裁の担当した裁判官はバカとしか思えません。
それが私の感想です。

久保豊年弁護士について

実は、久保先生は私の広島大学法科大学院時代の担任です。
(プロフィールに書いていないのは大学院行ったのが公安調査庁退職後だから)

この事件の担当だったのを知ったのは無罪判決が出て数日経った報道にて。
テレビを流しっぱなしで小説を書いていたところ、聞き覚えのある声が。
画面を見ると久保先生が会見していました。

すげえ……。

私の頭には、ただその一言が浮かびました。

久保先生から弁護について色々話を聞いたとき、私は「足掻く人」という印象を受けました。
検察が一旦起訴すれば、もう無罪を勝ちとること自体が絶望的。
でも無理筋だろうと何だろうと理屈を立てて、被疑者のために何とかする。
その姿勢に矜恃を感じると同時に、いい人だなあと思ったものでした。

今回の事件に対する久保先生の会見内容はこちら。

「諦めたらそこで終わり」。
今回の最高裁判決はそれを形にして見せてくれました。
私も師を見習って頑張ります!