効果あるのかなあ? 公安調査庁5年連続増員と聞いて思うこと

この記事は約6分で読めます。

2016-12-27インテリジェンス・治安

本記事では、元公安調査官の私が「公安調査庁、5年連続の増員計画 東京五輪へ対テロ強化」という朝日新聞のニュースについて検討するものです。

公安調査庁が5年連続で増員

公安調査庁(以下、公安庁)が5年連続で増員。
悲惨な時期を知る者としては「ふぇ~」と驚くものがありますが、昨今の情勢を鑑みれば当たり前でしょう。

大昔、私が全く治安と関係ない省庁の幹部にぼやいたときのこと。

私  みんなちゃんと働いてるのに左翼やマスコミから叩かれて悔しいです。誰も認めてくれないし。
幹部 それだけ世の中が平和な証拠さ。公安調査庁の働きが公然と世間に認められる時は、きっと社会がかなりの危機的な状況に陥ってしまってるよ。

なるほどなあと嬉しく思ったものです。
そうやって考えると、今回の増員はろくなものじゃないともいえるのですが。

朝日新聞の報道

これに早速食いついたのが朝日新聞。

そしてコメンテーターが青木理氏……またですか(笑)
またというのは、こちらの記事。

私の反論はこちら。

以下では、この朝日新聞の報道を援用する形で、私の見解を述べさせていただきます。

朝日新聞の報道の検討

まず記事全体の印象。

日常的な活動がなかなか見えにくい組織で、効果を疑問視する声もある。

これが誘導したい結論ではあるでしょう。
そこは朝日新聞なのだからしかたない。

しかし全体の構成としては公正中立な印象を受けます。
冒頭半分は一般論ですし、賛成・反対双方の意見を載せています。
朝日新聞も保守派陣営から叩かれ続けてまいったのか、それともかつてのトップ新聞としてのプライドなのか。

一般論

公安庁の人員増減の状況については、その通りの状況です。

公安庁側のコメント

「職員を増やせば、テロとの関わりが疑われる人物や団体の情報を幅広く集められる」と同庁幹部は言う。同庁OBの安部川元伸・日大危機管理学部教授は「ISが日本を攻撃の対象として名指しするなどしており、五輪に向けた対策は必要。テロリストが日本を狙うときは、その準備として協力者を国内につくる。端緒をつかむ人材の育成は重要だ」と話す。

なんて懐かしい名前が。
安部川元伸さんとは同じ係で一緒に仕事したことありますが、仲良くさせていただきました。
にこやかで真面目で、そして根っからいい人です。

安倍川さんは主にリエゾンを専門とする方。
リエゾンというのはCIAなど海外情報機関と情報交換を行う業務。
公安調査庁では本庁と地方局レベルのそれぞれで行っており、本庁の場合は本庁調査第二部第二課(2-2)が一括して担当しています。
外国との情報交換ですから、必然的に北朝鮮・ロシア・中国情勢や国際テロをめぐる情報を扱うことが多くなる。
特に国際テロへの造詣が深く、2-2の総括課長補佐・課長を務めた後、東北局長で退官されました。

安倍川さんには、こちらの著書があります。

国際テロリズム101問

「国際テロリズム101問」。
国際テロをめぐる基本的知識がわかりやすく記された良著。
国際テロに興味のある方は、よろしければ読んでみて下さい。

安倍川さんのコメントには特に何も言うことありません。
そもそも公安庁関係者なら、誰であっても同じ事を言うでしょう。
それくらいに当たり障りのない話ですし。

青木理氏のコメント

対する青木理氏のコメント。

 これに対し、著書に「日本の公安警察」があるジャーナリストの青木理氏は「破防法に基づく団体の規制という組織の成り立ちを考えれば、国際テロ対策の名で態勢を強化するのは疑問だ」と反論。「職員が増えても、そもそも権限の限られた規模の小さい役所だ。テロを防ぐ十分な調査力を備えるとは思えない」と指摘する。

リテラとは打って変わって大人しい口調です。
こちら、前段と後段で私の見解も変わるので、項目をわけさせていただきます。

前段

「破防法に基づく団体の規制という組織の成り立ちを考えれば、国際テロ対策の名で態勢を強化するのは疑問だ」

成り立ちがどうでも、今は国際テロの調査を業務としてやっている。
しかもテロ対策が必要であることは政府も国民も認めている。
そういう現状を無視して、いったい何を言っているのか。
底の浅さはリテラと変わらず。
もう「化石」と呼ばせていただきたい感じです。

後段

「職員が増えても、そもそも権限の限られた規模の小さい役所だ。テロを防ぐ十分な調査力を備えるとは思えない」と指摘する。

こちらは……正直、私も正しいと思います。

私は同庁在籍当時、自分で言うのも面映ゆいのですが、国際テロにおいて専門家と評されていました。
特にスパイ工作──現場での調査に実績があります。
まさに安倍川さんが私についてはよく知っていらっしゃっています。

その私が認めます。
職員が増えても調査力を備えるとは限りません。
少ないより多い方がいいのは確か。
しかし青木理氏の反論も、本人の意図するところと離れてではありますが、あながち外れてもいません。

人数が増えてもテロ防止につながらない理由 ~インテリジェンスは個人芸だから

青木理氏が言う、権限がないから効果に直結しない。
正確には「直結しづらい」と言うべきでしょうが、一般論としてあてはまるのは確かでしょう。
よって真です。

しかし、そもそも人がいないと何も始まりません。
その意味で偽です。

でもその上で、私は青木氏の「効果に直結しない」について認めます。
それは権限がないからじゃない。

インテリジェンスが人数でなく、個人が本来持ち合わせるセンスに掛かっているからです。

もちろん権限がある方が強いです。
しかしそれが全てではない。
権限を持つ警察庁が権限のない公安庁に出し抜かれる場面はざら。
週刊文春などの報道で書かれている通りです。

でもそれは、ごく一部のセンスある調査官によるのが実情。
公安庁は各調査官の個人商店なんです。
(というか、情報機関は区分の原則があるので基本そうなります)
残りが働いていない、頑張っていないというわけじゃありません。
頑張ってるんだけど、方向性や目の付け所を間違っている感じでした。

それでも一定程度までは、センスを経験で補えます。
しかし公安庁には実際の工作に従事する機関員を育てる制度がありません。
人員・能力・その他色々な理由がありますが……。
各局・事務所ではほとんど何も教えず調査に出しているのが実情です。
(これもどこかで報じていたと思いますが、まったくその通りです)
分析官については各課である程度制度化されてるから育つのですが、工作担当はなかなか。

このことは、活躍するごく一部の調査官も同じ認識。
中には育てるのがうまい方もいますが、その教育はスパルタ。
センスは努力で補わせるという感じでした。
私の同期がその方の部下についたときは「死ぬ……」と嘆いてましたが、元々センスを持ち合わせていたのもあって、現在では北朝鮮分野で誰もが認める活躍をしています。
なお、その同期は有名大どころか大卒ですらないことも付け加えさせていただきます。

ちゃんと教育なり訓練なり施してから実戦に投入すればレベルの均質化が図れるはず。
その分費用対効果も上がるはずなのですが。
人数を増やすのは結構なこと。
でもその前に、効果の上がる体制作りを目指してほしいと思います。