黒歴史? 「こんな弟クンは欲しくありませんか?」の歴代一話を並べてみた

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小説・創作

 2番目

XX11年11月24日 金曜日 15:30

 JR田町駅。電車から降りて時計を見る。
 待ち合わせは一六時。三〇分前か。
 早めに到着する様に移動したのはいいが早く着きすぎたな。
 家庭教師の教え子美鈴にメールを打つ。

【From:天満川小町 To:毘沙門美鈴
 Sub:現地待ち合わせに変更
 正門に着いたらメール寄越せ
 迎えに行くから
 時間も現地までの徒歩分考えて15時45分に変更でよろ】

 程なくスマホが振動。メールの返事が入る。

【了解です】

 本日は三田祭──俺の通ってる「慶凰大学」、略して慶大の学園祭。
 美鈴は来年大学受験。第一志望にしている慶大を見学したいと言っていたので、いい機会と思い三田祭を案内することにしたのだ。
 もっとも三田に通うのは二年から。俺は一年なので普段は横浜の日吉キャンパス。
 三田キャンパスを全く知らないわけでもないが詳しくもない。
 まして三田祭は俺も初めてだし先に下見をしておくとしよう。

 田町駅西口を出て第一京浜に出る。平日だけに車の往来はかなり激しい。
 信号を渡って「仲通商店街」と呼ばれる裏手の細い路地に入る。
 普段は始業終業時刻以外に人がいない通りも、本日は三田祭だけあってか人が多い。
 昭和を感じさせる古びた通りに似つかわしくないお洒落で華やかな女の子達。
 目の保養である一方、息苦しくも感じられる。

 三田通りの信号を渡って学校に到着。正門を入り南校舎を抜ける。
 うわ! これはまさに人の波。見渡す限りの人、人、人。
 もう十一月だというのに暑苦しく感じる。人いきれというやつだな。

 左手──大学院校舎の方を見やると野外ステージ。
 ミス慶大コンテストか。
 更なる群衆の中に特攻して突き進むのは考えるだけでも気が重い。
 右に折れて露店でも見て回ろう。
 図書館沿いに歩くと、やきそばにクレープにホットドッグののぼり。
 並ぶ屋台は縁日と全然変わらない。
 片っ端から食べて歩きたいが、それは美鈴が来てからでいいだろう。

 突き当たって左に折れ、今度は第一校舎沿い。
 するとすぐ、「Raven Tennis Club」のロゴが背中に金色で抜かれた漆黒のウィンドブレーカーを着る学生達が集まる屋台がふと目に入る。
 黒に金とかお前らはどこのマフィアだ。
 多くが美男美女ばかりなのもあって目立つ事この上ない。
 でももしかしたら今日は俺もこの中にいたのかもしれないんだよな……マイノリティである平凡容姿側の人種だけどさ。
 見つかると気まずい。迂回しよう。

 ──しかし遅かった。

「小町!」

 似非マフィアの中からツーサイドアップにした長い髪の女性が駆け寄ってくる。
 ああ、いつ見てもお前は可愛いよな。
 少し垂れた目尻が優しさを感じさせ、美男美女集団の中でもとりわけ目立つ。

「よう」

 だけど今は見たくない。
 できればその体全体で腕にしがみつくのはやめてもらえないか?
 別にお前の胸が無いからそう思うわけじゃない。
 このままそうしてて欲しいけどそうして欲しくないんだ。

「『よう』じゃないでしょ。一体どうしたの? サークルの溜まり場にも全然顔を出さないじゃない」

 挨拶だけじゃ誤魔化せないよな。
 俺が逃げないと悟ったのか腕は解いたが、代わりにすぐさまツッコんできた。
 その後は一〇センチ程低めからの見上げた目線で責める様に睨んでくる。
 でも、そんな目に俺は負けない。

「顔を出さないも何もカラスは既にやめたつもりなんだけど」

 レイヴンとはワタリガラスの事。
 だからメンバーは半ば自嘲気味に「カラス」と呼んでる。
 半ばというのは学内でも有名なテニスサークルだから半分は自慢みたいなもの。

「どうして?」

「お洒落なテニスサークルは、俺みたいなデブオタにやっぱ似合わないからさ」

 それこそ自嘲気味に言ってみる。
 でも別にデブもオタも本音では全く恥じていない。
 要するに言ってる台詞は建前だが本当の理由をお前に言うつもりはない。

「デブでもオタでもサークルしがみついてる人は他にもいるじゃん、やめちゃうと学校での居場所もなくなっちゃうし」

「お前はそれでフォローしてるつもりか? しがみついてるって、どう聞いてもデブやオタを見下してる表現だぞ?」

「その言ってる私本人がしがみついてるオタなんだから別に問題ないでしょ?」

「お前のは『多趣味』というんだ」

 慶大は世間で金持ちの通うお坊ちゃま校というイメージを持たれている。
 お前の見た目は全くそのままのお嬢様じゃないか。
 自然なメイク、清楚にまとめた服、さり気なくつけてるけど高いとわかる小物類。
 話題も豊富だし傍目には絶対にオタに見えない。
 もっとも女性オタは男性と違って身なり外見には普通の人以上に気を使うと聞くから、ある意味では女性オタの典型なのかもしれないけれど。

「多趣味だろうとなんだろうと私がオタには変わりないでしょ。小町いなくなったらオタネタで盛り上がれる人いなくなっちゃうじゃん」

 そうだよな。それが俺とお前の唯一の接点。
 お前が話しかけてきたきっかけも俺がラノベを読んでたのを見かけてからだったよな。
 チャラついてて居心地最悪だったカラスでもお前とだけは本当に仲良かったと思う。
 だからこそ秋になるまでは在籍してたわけだし。
 ……だけどここは強がらせてもらう。

「そんなの知らねーよ」

「退会届だって出したわけじゃないでしょ? 私は認めないよ?」 

「届だの認めないだの、お前はいつから会長になった。サークルやめるのはフェードアウトが基本だろ。必要なら届も今すぐ出すぞ?」

 しばし間が開いてから溜息をつく音が聞こえる。

「……わかった。それじゃ今日はもう言わないから売上だけ協力していってよ。名簿にだって名前があるんだしそれくらいならいいでしょ?」

 仕方ないか。

「いくら?」

「二〇〇円」

「随分安いな。ほら、小銭ないからこれで」

 使い途に困ってた二千円札を渡すと屋台へ。
 すぐに戻って俺にたこ焼きの入ったビニールの袋を渡してくる。
 ソースの香りが鼻腔を擽る。
 しかし……

「二〇〇円にしてはえらい多いな」

「一〇箱入ってるからね」

 何だよそのドヤ顔は。

「俺が頼んだのは一つだろうが!」

「二千円札渡されたら一〇箱と思うのが世間の常識でしょ?」

「常識じゃねーよ!」

「大食いの小町ならそれで一人前じゃない。せっかく気を使ってあげたのに」

「食べられるけど食べるか。これから待ち合わせなんだから」

 美鈴は日頃から痩せろ痩せろとうるさいのに、こんなのを見られてしまったらタコ焼きだけで食べ歩きが終わってしまう。
 時間が迫ってなければこっそり全部食べてから何食わぬ顔して会う手もあるのだが。

「ふーん? 女の子?」

「男だよ」

「だったら残り九つ分は私からのサービスにしてあげよう」

「何で上から目線?」

 しかも、何がどうなったら「だったら」なんだよ。
 文脈が全然つながってないだろ。
 だからうちの学校の入試科目も他の学校みたいに現代国語を設けろって言われるんだ。

「まあまあ、お釣りもちゃんと出してあげるからさ」

「当然だ。無い胸張らなくていいから早くよこ──」

 え? 俺の言葉を遮る様に両手を天に向けて広げたジェスチャーを示す。

「でも残念ながら、私って現在お金の持ち合わせがないんだよなあ」

「はい?」

「お釣りが欲しければ、悪いけどこのまま屋台に来るか後日溜まり場に顔を出してね」

 それだけ言うといーっとした口で舌を出してから去っていった。
 ったく、仕方ないなあ。

 ああ、そうだな。
 俺だって顔を出したい。
 お前の言う通りオタネタで盛り上がりたいって思うよ。
 それができるものならさ。

 屋台に戻った女性がカラスで一番人気がある男性と笑顔で話すのを遠目に眺める。

 わかってる。
 何もしなかった俺が全て悪いんだということは。


Author:天満川 鈴

社会の底辺に住まうパチンカス、ADHD(精神障害3級)
元公安調査庁職員。
国家一種経済職→入庁。イスラム過激派などの国際テロ、北朝鮮を担当。
朝鮮総聯へのスパイ工作を描いた小説「キノコ煮込みに秘密のスパイスを は週刊誌で紹介され、さらに推理・歴史作家の鈴木輝一郎先生から「江戸川乱歩賞獲れた」と絶賛。素人の小説としては異例の反響を呼びました。
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