黒歴史? 「こんな弟クンは欲しくありませんか?」の歴代一話を並べてみた

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小説・創作

 3番目(三年前掲載時の最終改稿)

<間もなく新大阪です。東海道線と地下鉄線はお乗り換えです……>
 車内アナウンスが流れる。もう大阪到着か。広島から新幹線で一時間二〇分。乗ったのはついさっきだった様に感じるのだが、案外と近いものだなあ。
 下車に備えて座席を立つ。棚からリュックを下ろしてデッキに向かう。夏真っ盛りだけに車内はTシャツの人が目立つ。俺もそうだし。いけないと思いながらも女性のシャツから透けて見えるブラの線についつい目が行ってしまう。
 現在は中学最後の夏休みを利用して大阪へ向かう旅行の最中。大阪で働いている姉貴が「遊びに来い」と新幹線のチケットを送ってくれたのだ。一人で新幹線に乗るなんて少しだけ自分が大人になった気分になる。それに加えて初めての大阪、今から既にわくわくしてしまってる。まずは大阪名物ビスコの看板と食いだおれ人形を案内してもらおう。
 姉貴と顔を合わせるのも久しぶりだなあ。デッキの壁に寄りかかって携帯を開く。
【From:天満川|観音《みね》 To:天満川小町
 Sub:待ち合わせの時間と場所
 19:30に新大阪駅新幹線改札まで迎えに行くけえ、それに合わせて|来《き》んさいね】
 予定の時間よりはかなり早めの到着だけどそれは新大阪駅の周辺を観光して回ろうと考えてのこと。何せ大都会大阪の新幹線停車駅。駅ビルと|福屋《デパート》しかない広島駅付近と違って大繁華街が広がってるに違いない。
 しかし、この「小町」って自分の名前を見る度に鬱になる。この女みたいな名前はどうにかならないのかよ。親は「あんた生まれた時ぶち可愛うてから女の子じゃあ思うたけん」と説明する。俺も最初はそれで仕方ないなと納得していたけど、実は地元広島市の地図から適当に拾った町名で名付けた事を姉貴に聞かされた時は激怒するしかなかった。
<御乗車ありがとうございました。新大阪に到着致します。お出口は右側です>
 携帯を畳む。ドアが開くと同時にホームに降りる。同時にもわっとした空気が肌に当たる。まさに日本全国夏日よりってとこか。
 ホームから冷房の効いた構内に入り改札へ向かう。歩いていて広島駅とあまり変わった感じはしない。大阪は広島よりも都会だけに、もっとこう人と人がぶつかりあって歩く隙間すらないというイメージがあったんだけど。案外とそうでもないものだ。
 改札を抜ける。すれ違うお姉さん達の化粧が広島よりも厚い。服の色遣いも派手。それでいて品が無いわけではなく垢抜けてる。うーん。やはり別の土地にいることを実感できるなあ。 さて、駅を出るにはどっちに向かったらいいんだ?
「なあなあ、そこのカノジョ」
 上を見ると看板。北口だの東口だの出口がいっぱいありすぎる。広島駅みたいに南口と新幹線口だけならわかりやすいのに。
「返事してえな、べっぴんさん」
 とりあえず正面口と書いてる矢印の方向に向かってみようか。正面と書いてるからにはきっとそこがいわゆる正門なんだろう。体を左に向ける。
「待ちいな」
 ──うわ! 体を向けた先には男が立ち塞がっていた。
 ……何、この人。とさかみたいなリーゼントに甚兵衛服。扇子を仰ぎながらサングラス。いかにも数十年前の漫画に出てきそうなヤンキーファッション。駅構内って禁煙じゃないんですか? さすが大阪、こんな人がまだ生息してるんだなあ。
「あの……なんでしょう?」「道に迷ってるみたいやん、俺が案内したろか?」「結構です」 目をそらしヤンキーの横を足早に通り過ぎようとすると右肩を掴まれ押しとどめられた。
「ええやんか、ちょっとそこらでお茶でもせえへん?」
 しつこいよ。意を決して顔を上げ、サングラスの向こうにあるであろう男の目を睨む。
「お兄さん」「ああ、ええなあ」「はい?」
「そのハスキーなボーイッシュ声で『お兄さん』とか呼ばれると弟の様な妹の様な。一度で二度美味しいやん」
 こいつは変態か。
「おっさん」「おっさんちゃうわ」
「僕もカノジョともべっぴんさんとも違うんですけどね。僕は『男』です」
 耳に入れたくない台詞だから敢えてここまでスルーしていたのに。
「またまたあ、そないなん言われて誰が信じるん」
 そう……俺は名前だけじゃない。親の台詞じゃないが顔までも完全に女。
 認めたくないけど「男の娘」などというふざけた呼称のまさにそれ。
 男同士で学内可愛い子ランキングを話している時に自分の名前を出されると不愉快な事この上ない。冗談ならまだいい。真剣な眼差しで見つめながら「俺とつきあって」とか、それこそ本気でやめてくれ。
 その一方で女の子からは全然もてない。この顔のせいで春先に振られたばかりだし。もちろん女の子の側から告白された事なんか一度もない。
 みんな「綺麗」とか「麗しい」とか言うけど、そんなの男への褒め言葉じゃねーよ。
 誰か一人くらい「格好いい」って言ってくれてもいいのに。

 そんな俺の思いをよそにヤンキー男が続ける。

「胸ぺったんこやねんけどノーブラやん。それって俺の事誘ってるんちゃうん?」

 その一言でキレた。

「のう」

 出せる限りの低い声を出して眉間にしわを寄せながら斜にかまえる。
 いわゆるヤンキーのポーズ
 男がびくっとしたのを確認して一気にたたみかける

「人が黙っとりゃあカバチばかりたれおってから。あんまなめとるとぶちしばくぞ?」

「あ……え……と……」

 肩に置かれた手を払ってから動揺する男の横を今度こそ通り過ぎる。
 はあ……どきどきした。
 広島弁ってこういう時にはったりが効いていいな。

「……いい!」

「え?」

 背後から思わぬ言葉が聞こえてきた。

「その顔その声でそのギャップのある台詞、めっちゃゾクゾクするやん。近くのラブホで俺の事もっと叱ってえな」

 やば……まさか、こいつって……真性の変態さん?
 とっさに振り向き、ヤンキーの|脛《すね》を思い切り蹴り飛ばす。

「いたっ! 何すんねん!」

 反射的にかヤンキーは屈み、そのまま動きが止まる。
 その隙をついて床を蹴り上げ一気にダッシュ!

「待ってえな、俺と愛し合おう、なっ?」

 そんな恥ずかしい台詞を叫びながら追いかけてくるのはやめてくれ。
 方向もわからないまま、必死に走る。
 姉貴助けて! 大阪って怖すぎます!


Author:天満川 鈴

社会の底辺に住まうパチンカス、ADHD(精神障害3級)
元公安調査庁職員。
国家一種経済職→入庁。イスラム過激派などの国際テロ、北朝鮮を担当。
朝鮮総聯へのスパイ工作を描いた小説「キノコ煮込みに秘密のスパイスを は週刊誌で紹介され、さらに推理・歴史作家の鈴木輝一郎先生から「江戸川乱歩賞獲れた」と絶賛。素人の小説としては異例の反響を呼びました。
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