スーパーヒーローメイドマン

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2014-04-22短編

 お腹空いた……。もう三日も水しか飲んでない。
 政権変われば景気も上がると言ったのはどこの誰だよ。
 これで面接何連敗だろう、もう疲れた。

 でも俺には光明が見えている。
 それはポストに投げ込まれていた一枚のチラシ。

【(有)スーパーヒーローメイドマン派遣会社 正社員募集】

 誰がこんな胡散臭い会社に応募するんだよ。
 これなら競争率だって低いはず。
 募集条件は

【・性別が男性である事 ・家事万能である事
 この二点を充たす方ならどなたでも歓迎します】

 幸い俺は家事完璧。
 例えば俺が現在いる自室は塵一つなく片付いている。
 電気もガスも止まっているから他の例を挙げる事はできないけど。
 性別も充たす。
 給料は一〇万+歩合とかなり安いが俺の家事の腕があればきっと稼げるだろう。
 学歴も資格も無い俺だけど家事は唯一の取り柄。今日はきっと大丈夫さ。

 てなわけで流しに行き蛇口を捻る。頭を突っ込む。
 もう三月と言えども水が冷たい。
 我慢しながら頭を洗う。泡立たないのがこれまた辛い。
 体を拭いてスーツを着て、さあ出発!

 ──なけなしの交通費をはたいて目的地到着。
 古びたビルだよなあ、いかにも崩れ落ちそうだ。
 まあこんな胡散臭い会社が儲かっているわけがない。
 俺は給料だけもらえればそれでいい。
 階段を上がり会社に入る。

「すみませ~ん、電話で面接の予約をした者ですが」

 机に座っていた筋肉ダルマのヒゲオヤジが立ち上がる。
 がっちりとした高そうなスーツで身を固めている。
 他に机はなく応接用のソファーがあるだけ。
 人材派遣業だとこれでも成り立つのかな?

「お待ちしてました、どうぞこちらへ」

 応接用のソファーに促されるので腰掛ける。
 履歴書を提出。志望動機等ももっともらしい物を考えてある。
 さあ何でも聞いてこい!

 しかし、ヒゲダルマの口から飛び出した言葉は予想外の物だった。

「申し訳ございません、当社ではあなたを雇えません。このままお帰り下さい」

「どうしてですか。私は男ですし家事も完璧です。条件充たしているじゃないですか!」

「帰れと言ってるのが聞こえないの?」

 言葉遣いも変わった。でもここで引き下がれるか!

「理由くらい聞かせてくれてもいいんじゃないんですか? 質問すらされずに不採用じゃ納得いきません」

 ヒゲダルマがライターを取り出しキンッと音を鳴らしながら煙草に火を点ける。

「仕方ないねぇ、君は性別男と言ってるけどどこからどう見ても女じゃない、声だってそうだしさ」

「それが何か問題あるんですか! 外見で判断しないで下さい!」

 そう俺はいわゆる男の娘。正確には『だった』と言うべきだろうか。
 二十歳超えて『娘』はさすがに名乗れない。
 でも髭も生えないし体も華奢だし化粧しなくても女にしか見えないからニューハーフとも言い難い。
 こういうのは一体どんな表現すればいいんだろうね。

「問題? 大アリよ。うちは外見も『男』である人しか求めてないの」

「どういうことでしょう?」

「当社がどうして『メイド』ではなく『メイドマン』を探してるかわからないかしら」

「いいえ、まったく」

「世の中の主婦には僕みたいな絶対にメイド服が似合わない男性にメイド服を着せて萌えを感じる人達っているのよ。だから君みたいに外見女性な男には用がないの」

「そんなのいるわけがないでしょうが!」

「いるんだから仕方ないでしょう。恐らく無理矢理着せるというところで嗜虐欲を満たしてるんじゃないかと思ってるんだけどね。ちょっと待ってて」

 ヒゲダルマが奥に引っ込む。

 ──ぶっ!
 再び現れたヒゲダルマはメイド服姿だった。
 それも一分丈と言っていいくらいのミニ。
 フリルからはトランクスがはみ出している。すね毛の処理もしていない。
 天国のお母さん。俺は今すぐあなたの元に逝きたくなりました。

「君、そんな魂の抜けた様な顔をしないでくれない?」

「するわ!」

 ヒゲダルマは俺の叫びを無視してラミネートされたA4の紙を差し出す。
 何々? 【オプションプラン】?
 【隻眼:一〇〇〇円 黒炎:八〇〇〇円 ……】

「何ですか? これ」

「お昼は食べてきた?」

「いいえ」

「なら丁度いい、僕達がどのような仕事をしているか実演してあげましょう。特別にオプションも付けてあげる。来なさい」

 ヒゲダルマが俺を裏手に誘導する。
 そこには何故か場所に釣り合わない見事なキッチンがあった。
 ロッカーもあるから更衣室兼用らしい。

 ヒゲダルマが白地にハートマークが描かれた眼帯を付ける。
 なるほどこれが隻眼か。

「黒炎は?」

「今からわかるよ」

 ヒゲダルマはそう言うと中華鍋を取り出す。
 鍋に具材と御飯を入れて炒め始める。
 コンロからは炎が立ち上がっている。
 その炎をくぐる様に御飯を舞わせる。

「これが『黒炎』。今やってみせてる様に中華料理は炎が操れないとだめだけど家庭でこれだけの炎を出すのは無理だから器材を持ち込むのよ」

「はあ……だからやたら値段が高いんですね」

「そういう事、さあ出来たからどうぞ」

 ヒゲダルマが出来上がったチャーハンを差し出してくれる。

「いただきます」

 ──美味い!
 これは美味い、俺が三日間物を食べてないからという理由だけではない。
 口の中で御飯はぱらりとほどけ、その粒をくるんだ卵が口当たりを良くしている。
 海鮮を中心とする具材も明らかに新鮮でいい物を使っている。
 この海老のぷりっとした食感、噛みしめるとプチっとする。
 この絶妙な火加減、油の加減。
 とても俺にはこんなチャーハンは作れない。

「どう? 僕達は伊達にスーパーヒーローを名乗っているわけではないの。萌えだけではなくどんな家事であれその分野のスペシャリストに負けないだけの仕事をこなしてみせる。それが『家事の守護者《ガーディアン》』としての僕達の矜恃。言わば主婦のスーパーヒーローということでね」

 うう、なんか負けた。
 しかも思ったよりまともな会社なのが余計に悔しい。

「でも、それでも……お願いします、雇って下さい! 頑張って修行します! これが三日ぶりの食事だったんです! もう僕には家に帰るお金も無いんです!」

 その場で土下座をついて懇願する。
 このままじゃ俺は飢え死にだ。

 ヒゲダルマが腕を組んで考え込む。

「そうは言ってもねえ……そうだ、うちの兄弟会社でもいい?」

「はい、もう何でもいいです!」

 ヒゲダルマがチラシを一枚差し出す。

【スーパーヒロイン スクールメイド】?

「こっちはコスプレをした家事手伝いの派遣会社」

「ヒロインって性別女性じゃないですか! しかも年齢制限一八歳って書いてますが!」

「性別は君なら大丈夫でしょ。僕の紹介と言うことで押し込んで上げる。年齢はメイドは永遠の一八歳だからそのくらいにサバを読める外見なら大丈夫。嫌なら別にいいけど」

「やります! 何でもやります!」

 背に腹は替えられない。女装なんか耐えられないけどここはやるしかない。

「わかった、それじゃ今から連絡してあげる。可哀相だし交通費も出してあげましょう」

 ヒゲダルマはそう言うと交通費を渡してくれた。

「それじゃ頑張ってね」

 ──新たに面接を受け直した俺は無事に採用が決まった。
 三日御飯を食べてないということまでヒゲダルマが話してくれたらしく、帰りにはどこかのフルコースとしか思えないお弁当までも持たせてくれた。しかも電気代とガス代分の前借りもさせてくれた。
 なんかどこかで間違えてる気がしないでもないが明日から俺のメイド生活が始まる。
 頑張るぞ!