俺が焼肉食べ放題に誘われない理由

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2014-04-24短編

 〈ジリリリリリ〉──終業の合図。
 やっと終わったあああああああああ!
 思わず手を上げて立ち上がる……あたた、机に腹がつっかえた。
 なんせ九〇㎏のデブだからなあ。

 二月一日、今日で学年末試験終了。
 晴れて春休み突入。
 一緒に打ち上げをやってくれる彼女がいないのが寂しいけど、とにかく終わった。

 俺達文学部生にとって一年生の学年末試験は四年間の中で最大の山場と言っていい。

 元々うちの大学は私大の中でも進級が厳しいと言われている。
 なんせ各学年で留年が許されるのは一回のみ。
 二回目は即放校。
 他の学校では条件無しで八年まで在籍できるところが多いらしい。

 特に文学部は一年生で必修科目を落とすと地獄を見る。
 必修科目一つまでなら仮進級はさせてもらえるが「仮」の名の通り、二年から三年にあがる時にかなりの確率で留年する。
 なぜならうちの学校のキャンパスは一年生と二年生以降の場所が別々で、必修を落とした場合は双方を往復する事になる。
 その所要移動時間は往復で五〇分。
 従って時間割にも制約を強いられるし、留年した先輩達によれば両方のキャンパスを往復している内に気力が削られていくとか。
 そして留年したところで大抵は必修を再度落としているから状況は変わらない。
 つまり仮進級は留年どころか放校フラグが立つと言っていい。

 その癖して、多くの学生が授業には出ないし、当然ノートを取ってない。
 選択科目については教科書すら持ってない。
 世間一般に大学とは四年間遊びに行く場所なのだから当然だ。
 つまり大勢の学生が試験前には何の準備もできてないし、慌てふためく。

 そういうサバイバル的な状況に置かれるとどうなるか。
 クラス全員がにわかリア充と化すのだ。

 まずは真面目にノートを取っている数少ない学生を探し出さないといけない。
 そして見つければ、普段は人に話しかける勇気がなくても、ノート等の資料を手に入れるためには積極的に声を掛ける必要に迫られる。
 そのノートを持っているのが、普段は声を掛けるのもためらわれる美少女だったとしても、「ノート下さい!」と頭を下げに行く。

 一方でこういうのはギブアンドテイクだから、自分も資料を差し出さないといけない。
 もらうからには手持ちのノートは全て出す。
 それだけではない。
 クラスでどうしても集まらない科目のノートがあれば、それが例え自分に必要なくとも、ツテを頼って何とか仕入れる。
 教科書を持ってない人がいれば、先輩からもらってきて差し出す。

 みんなが自分の持っているコミュ力を総動員する。
 それこそクラス全員が試験に必要な材料を揃えるまで全力で協力する。
 ちなみに「ノート下さい!」の一言すら言えない人は、自分が全ての授業に出席してノートを取ってない限り、留年の運命が待っている。

 もっとも、俺はマイナー人種であるノートを取っていた側。
 奨学金のために成績評価を稼ぐ必要があるからだ。

「士郎お疲れ、試験どがなあ?」 

 広島人の福富が声を掛けてくる。

「俺は余裕だよ。福富こそどうだった? 俺のノートは役立ったか?」

 もちろん試験対策のノートにしても借りるのではなく回す側だった。
 うちの大学は相対評価ではなく絶対評価。
 試験の点数がそのまま成績になるから、自分が情報を独占する必要はない。
 だったら幸せはみんなで分かち合うべきだ。

「お陰様でクリアできたわ。ほんま『デブノート』にはぶち世話になったけえ、感謝しとるって」

「『デブノート』? わりゃ、なあんカバチたれおんな。しばきあげるぞ!」

 にわかの広島弁で怒鳴りつける。
 陰でそう名付けられていたのは知ってるけどさ。
 巡り巡って俺の所に戻ってきた文書ファイルの題名が「デブノート.doc」となっていたのを見た時のショックと来たらもうね!

「まあまあ、そないな事言わんといてな。みんなも『デブノートに書いてる事は本当に試験に出る』言うて士郎に感謝してんやんか」

 大阪出身の大柿が割り込んでくる。

「授業のノートなんだからそこから出るのが当たり前だろうが」

 俺が先生を見れば試験問題が頭の上に表記されてるとでも言うのかよ。
 たかがそれくらいの恩恵で寿命の半分は失いたくない。

「そういえば士郎痩せたんじゃね? 顔が少しほっそりとした気がするぞ?」

 東京出身の黒瀬も割り込んできた。

「そうか? 勉強で徹夜続いてるからそのせいじゃないかなあ」

 実は一月からダイエットを始めている。
 このままデブのままじゃいけないと思ったから。
 だけど何となくダイエットしてるとは口に出しづらい。
 男の癖にとか言われそうだし、失敗した時が恥ずかしいし。

「そっか、まあ今日からはゆっくり寝られるしな。早く帰ってゆっくり休め」

 と言うか、空腹で目眩がするから早く寝たいよ。
 カロリー制限してるから辛くて仕方ない。

「おう、そうするよ。じゃあ、また四月な!」

 リュックを背負い、教室を後にする。
 歩幅を広く取った早足で真っ直ぐ駅に向かう。
 実はこれもダイエットの一環。
 履いているのはトーニングシューズ、何と歩くだけで痩せるという代物。
 試験も無事終わったから気分も弾む。
 家に向かう俺の足は実に軽かった。

 すると、クラスメイトの船越に出会う。

「士郎、お疲れ」

「おう、お疲れ」

 挨拶は返す。
 でも俺は正直言ってこいつが苦手だ。

 と言うのも……。
 うちのクラスでは最後にとある超マイナー科目のノートがどうしても手に入らなかった。
 新しい科目だから昨年のノートすらなかった。
 そのノートを唯一持っていたのが船越だった。
 クラスのみんなが船越から回してもらえるものと期待した。
 しかし、船越は「欲しければ五千円×希望者分」と言い出した。
 クラス全員が助け合う雰囲気の中で、そんな事を言ったのは船越だけ。
 クラスの面々は「欲しい」、でも「悔しい」と葛藤を続けた。
 五千円という金ではなくプライドの問題で。
 しかし背に腹は替えられないというところで、俺が友達の友達の更に友達から何とか仕入れて事なきを得た。

 もちろん、みんな船越にはむかついた。
 それでも船越にノートや資料を回してやってるんだから寛大だと思う。

「士郎はクラスの打ち上げ行かないの?」

「えっ?」

 打ち上げがあるなんて全然聞いてないぞ。

「黒瀬が幹事で焼肉食べ放題に行くらしいよ、俺は行かないけどさ」

 そりゃ、お前はどの面下げて行くんだという気がするけど。

「ふーん、そうなんだ」

 頭の中は混乱しながらも、それしか返せない。

「あー、そうだった。忘れてた、そう言えば士郎には内緒って話だったわ」

「今何て言った?」

 難聴になったわけじゃない。
 それでも耳を疑った。
 聞き返さずにはいられなかった。

「お前もあれだけノート回してクラスから嫌われてれば世話無いよなあ、じゃあな」

「おい。ちょっと待て」

 船越は俺の制止も無視して走り去っていった。

 何だよ、それって……。
 つまり俺は仲間外れにされたということ?
 スマホを取り出しかける。
 しかし、その動作は途中で止まってしまう。
 電話を掛けて聞いてどうする、俺が今置かれた状況が全てじゃないか。
 そもそも掛けられるわけがないじゃないか。

 しかも、あれだけみんなからぼろくそに言われた船越ですら誘われている。
 俺はもしかして……みんなに利用されただけだったのか?

 焼肉か。
 ダイエット始めて焼肉なんか食べてない。
 きっとダイエットが終わるまで食べる事もできない。
 食べたかったなあ。。。
 特に予め値段の決まった食べ放題は俺達学生の味方、好きなだけ食べられるのになあ。

 ──翌日。
 昼間に黒瀬から電話が掛かる。
 福富と大柿も呼んで、徹夜で試験の打ち上げ麻雀をしようという誘いだった。
 珍しいな……。
 俺は麻雀が強い。少なくとも他三人だと相手にならないくらい。
 絶対に俺が勝つから、普段は俺が誘っても逃げるし、誘われる事なんかまずないのだが。
 それも徹夜ということになると、どれだけ負けるかわからないだろうに。

 一体どの面下げて……そうは思うが、俺を嫌っている奴がこんな誘いをしてくるか?
 例え三人で組まれたって俺には敵わない。
 それくらいの力の差があるのに。
 わざわざ俺に小遣いを渡しに来ると言ってる様なものだ。

 まあいい、行ってみなければ始まらない。
 仮眠を取ってから待ち合わせ場所の雀荘に集合する。

「おう、来たか。夕べはゆっくり休めたか?」

 いつもの黒瀬の口調。
 特に俺を嫌っているとも思えないんだが……。
 はっきり聞けば早いんだけど、そうもいかないしなあ。

「ああ、まあな。それよりもレート下げようか? いつもの点五だと、お前らいくら負けるかわからんぞ?」

 点五は一〇〇〇点五〇円。
 一回の半荘で三〇〇〇円前後のお金が動く。

「たまにゃあ一緒に打ったらんとかわいそうじゃしのう」

「せや、士郎の心配する事やあらへん」

「お前が勝てるとは限らないんだからな、全力で負かしに行ってやるよ」

「まあ、そこまで言うのなら」

 しかし結果は分かりきっていた。

「ロン、一八〇〇〇点。また俺のトップだな」

 一〇回打って、全て俺のトップ。
 こいつらなんて弱いんだ。
 まるで当たり牌が分かっているかの様に次々と振り込む。
 しかも一〇回通して一回もあがれないとかあり得ないだろ。
 点五でもチリが積もれば何とやら、合計で三万円の勝ち。
 さすがに友達からこんなに受け取れない。

「半分でいいよ」

「じゃかあしいわ、負けたんじゃけえ払う!」

「やっぱ士郎とは二度と打たへんからな!」

「楽しかったしいいよ、また遊ぼうぜ。但し麻雀除く」

 何だかなあ。
 仕方ない、こいつらも覚悟の上だったんだろうしありがたく受け取っておこう。

 ──四月。
 うちのクラスは全員進級していた。

 黒瀬が手を上げながら声を掛けてくる。

「士郎、おはよう」

「おはよ」

「今晩、クラスのみんなで進級祝いの飲みするんだけど、お前も来るだろ」

 え?

「俺行っていいの?」

 黒瀬がきょとんとした顔をする。

「春休みボケか? 当然だろ」

 何なんだ?
 試験後の打ち上げには誘わなかった癖に。
 でも、誘われたという事は嫌われていると言うわけじゃないのかな。
 よくわからないけど行ってみよう。

 夜の飲み会。
 会場は豆腐料理の居酒屋だった。
 これならダイエット中の俺でもそれなりに食べられる。
 ダイエットしてる身にとって、豆腐は貴重な植物性タンパク質。
 しっかり食べないとな。

 ──五月半ば。
 ずっともやもやした感情は胸に抱えっぱなしなのだが、春の始業が始まってから今日まで、みんなの俺に対する態度は変わらない。
 もし、これで俺が嫌われているのなら、かなりの鈍感だろうと思うのだが。
 それでもやはり話を切り出せない自分が悲しい。

 黒瀬が話しかけてくる。

「士郎、今晩空いてるか?」

「空いてるけど?」

「クラス有志で食べ放題行くんだけど、お前も来いよ」

「何の食べ放題?」

「自然食。ヘルシーにガンガン食おうって話になってさ」

 それならいいか。
 ダイエットも目標体重に迫ってきたし、それなりには食べても許されるだろう。

 しかし、ふと引っ掛かる。
 学年末試験の後は確かに誘われなかったけど、それ以外の飲み会や食事会はちゃんと誘われている。
 多分、嫌われてるということはないと思うんだが……じゃあ、どうして俺はあの時誘われなかった?
 わからない。
 あえて言うなら、違いは学年末試験の時は焼肉食べ放題だったくらいか。

 なぜ?
 どうして焼肉だと俺は誘われないんだ?

 そう言えば聞いた事がある。
 焼肉を食べるのは特別な関係じゃないとだめだとか。
 昔では恋人同士ですら、ちゃんと関係を持ってからじゃないと焼肉に行ってはだめだったという話を聞いた事もある。
 つまり、俺とは他の食事に行けても焼肉を食べに行く関係ではないという事。
 ……ショックだ。
 でも大学のクラスの付き合いなんて所詮そんなものなのかも。
 表向きだけでも友達付き合いしてくれるだけでもいいのかもな。

 ──六月末。

 キャンパス生協食堂。
 黒瀬、福富、大柿のクラスメイト三人と一緒に昼飯を食べている。

「そろそろ前期末だなあ」

 東京人の黒瀬、それはあまりにも棒読でわざとらしいぞ?

「時間割発表まで後二週間もあるじゃないか」

 しかも試験は一ヶ月後だし。念押ししなくてもノートくらい回すぞ?

「そがあな言うたらいけん。早めに対策するに越したことはあるまあや」

 広島人の福富が学生の鏡であるかの様な台詞を吐く。

「今回も士郎にはデブノートあてにしてんねんで」

 大阪出身の大柿がわざわざデブを強調して言う。

「デブ言うな! もう痩せたろうが!」

 俺はついに目標体重の六五㎏まで痩せた。
 つまりダイエットに成功した。
 それなのにデブノートって一体何だよ。むかつくけど語呂が妙にいいんだろうな。

 黒瀬が話しかけてくる。

「まあそう怒るなって。士郎、明日の晩って空いてるか?」

「今のところ予定はないけど?」

「んじゃクラスのみんなで前期末試験の打ち入り焼肉行こうぜ。士郎にはかなり世話になるだろうから、お前の分はみんなで出してやるよ」

「え!?」

 遂に……遂に焼肉食べ放題を誘ってもらえた。
 嬉しくて、目から涙が溢れてくる。

 福富が不思議そうに尋ねてきた。

「のう、何泣いとんや」

「だって、学年末試験の打ち上げで俺だけ焼肉食べ放題に誘われなかったの知ってるんだぞ」

 大柿が叫ぶ。

「誰やねん、士郎に喋ったん」

「やっぱり……本当だったのかよ、お前ら本当は俺のノート利用したいだけなんだろうが。別に焼肉誘ってくれなくたってノートくらい回すよ」

 みっともない事を言ってるが、これくらいの嫌味は言ったっていいだろう。

 黒瀬が慌て出す。

「い、いやそうじゃなくてだな」

「どうせ俺はいじめられっ子だよ。みんなに利用される情弱だよ」

「いじけたらあかんで」

「ほんまよ。はぶてんなや。まあ、わしらの話を聞きんさい」

「いじけたくもなるわ。話って何だよ」

 福富が目を伏せて言いづらそうに口を開く。

「だって、士郎、一月からずっとダイエットしおりよったろうが」

「あれ? 俺言わなかったはずだぞ?」

 「痩せた?」って聞かれた時も隠したのに。

「食べる量が一気にぶち減りおったのによ、見おりゃあ言わんでもわかるわあ」

「一気に外見も痩せてきてたしな」

「せやねん。せやからうちらも下手に打ち上げ誘うとかわいそうやなと思うて。来たってうちらが食べるのを横目で眺めるのは地獄やろうし」

「焼肉じゃのうて何誘うても同じじゃけんのう。そいで下手に誘うたら、士郎も断りづらいじゃろう思うたけん、みんなで内緒にしようゆうことになって」

「だからクラスでカンパを募って、御礼代わりに翌日お前と麻雀打ったんだよ。どうせ勝つのはお前だし、打ち上げに呼ぶよりもその方がいいかと思ってさ」

 ……そうだったのか。

「じゃああの日はわざと負けてくれた?」

 三人の顔が一斉にぴくっとする。

「良く言った」

「ほんまにハブにしちゃるど」

「あれがうちらの実力やねんけど、なにか?」

「ごめんごめん」

「恩に着せるわけじゃないけど俺達も頭悩ませたんだぞ。お前のダイエットの進行状況に合わせてさ、これくらいなら大丈夫かと店選び考えて」

「士郎、ダイエットしおるゆうて言いとうなかったんじゃろうけん、どこ行きたいかも聞けんしのう」

「それでもし士郎がダイエットに成功したら焼肉食べ放題をクラスで奢ったろうって話になっててん。ほんまよう頑張ったな」

 だから豆腐料理居酒屋に自然食バイキングと、許されそうなカロリーが増えていったのか。
 お前ら……ありがとう。

「でも、士郎には言うなって事でクラスで確認しあったはずなんだが……誰から聞いた?」

「船越」

「ああ……」

「あんなあか……」

「わかるな……」

「どうしたの?」

「いや、あいつって士郎を恨んでんねん」

「なんで?」

「いやな、船越の奴って以前にレア物のノート集めて売りさばく事で金稼ごうとしてねんか。せやけど士郎がノートばらまいて台無しになったやん」

「うん」

「そっからあいつ、裏でずっとお前の悪口言いまくってんねん。士郎が○○の悪口言ってたとか、士郎がクラスみんな自分の言いなりと言ってたとか」

「言ってないから!」

 しかも悪口どころか、滅茶滅茶陰湿じゃねえか!

「それはわかってん。余りに見え透いてるから船越の方が逆に不興を買ってんけどな。それでもクラスメイトやと情かけて焼肉も声を掛けてんけど違ってたな」

「士郎に不信の種を植え付けてニヤニヤしながらざまあしてたんだろ」

「ほんまあ船越はクラス内では永遠に『見えない君』にするしかないのう。ぶちはがええわ。あんなあにはこれからは誘わんし情報も回さんけえ。デブノートの表紙には『船越除く』って書いといてちゃれえ」

「そうか──」

 人間どこでどう恨みを買うかわからない。まさか自分が陥れられる側に回ってようとは。

「──でも『船越除く』はいいよ。欲しければ奴にも回してやれ」

「え?」

「なんでな?」

「どうして?」

「船越には船越の論理があるんだろうし、あいつが間違ってればどこかで天罰が下るさ」

 別に格好つけるつもりはないんだけどさ。
 俺はみんなから嫌われてなかった。
 それどころか黙って俺を見守ってくれていた。
 俺にはそういう友達がいるだけで十分だ。

「お前心広いなあ」

「お人好しすぎるし」

「わしの事抱いてえや」

「抱くかボケ!」

 ──翌晩。
 焼肉食べ放題店にクラスのみんなが集まる。
 但し船越以外、誘ったけどさすがに来なかった。

 幹事の黒瀬がグラス片手に乾杯の音頭を取る。

「それじゃあ前期試験頑張ろう! あと士郎はリバウンドしない程度に食べる様に」

「大きなお世話だ!」

 トングを使って、分厚いカルビを七輪に載せる。
 そうだ、考えてみれば半年ぶりの焼肉だ。
 じゅうじゅうと肉が焼ける。ぱちぱちと脂の弾ける音がする。
 煙が立ち上がる。
 匂いが流れてくる。嗅いでるだけで涎が出てくる。

 焼き上がった。
 タレに漬けて、口の中に入れる。
 ゆっくりと噛みしめる。
 肉汁が口の中にしみ出す。

 うん! 美味い!
 所詮は食べ放題の肉、最高級店に比べればたかが知れてるだろう。
 それでも半年ぶりに味わった焼肉は、これまで味わった事のない至上の味がした。