「俺はアンチテンプレ書きだから『小説家になろう』でウケない」と言ってるあなた、私がそのチンケなプライドをへし折ってさしあげますわっ!

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2015-05-25短編

 

 大阪から新幹線に乗って、横浜までやってきた。
 今は中華街を歩いてる。

 俺こと「鈴」はこれから「楓」に会う。
 「楓」は10年近く様々なネトゲをコンビ組んで戦い歩いた、いわゆる相方。
 今は「小説家になろう」で一緒に過ごしている。

 俺は底辺とも言えないけどメジャーとは絶対言えない程度のなろう作家。
 一方の楓は「読み専」。
 楓は活字が好きで好きでたまらない活字中毒。
 活字があればポテチも……やっぱり欲しいかもな。
 スカイプの向こうから、いつもパリパリ聞こえてくるし。

 MMOでモンスターと戦うのはペアでもできる。
 しかし作品を描くのは一人でしかできない。
 なので現在は、俺の作ったサイトでオススメなろう作品のレビューを書いてもらうという感じでコンビを組んでいる。

 まあ……いわゆる腐れ縁というやつだ。

 楓が指定してきたのは横浜中華街重○飯店。
 麻婆豆腐が最高に美味しい店。
 俺の好物ということで楓が選んた。

 そんな楓。
 実は会うのが今日が初めて。
 これまで写真ですら、その姿を見たことがなかった。

                   ※※※

鈴「詐欺じゃないか」

楓「詐欺って?」

鈴「ゲーム内では幼女だったくせに、胸バインの腰キュッな大人じゃないか」

楓「……頭湧いてる? しかも私達、一応は初対面なんだよ? 開口一番がそれ?」

鈴「これまでさんざん腹割って話してきたのに、初対面もあるまい」

楓「それもそうね。じゃあ注文するけど、麻婆豆腐でいいんだよね?」

鈴「もちろん」

楓「奢るから遠慮無く食べて。店員さん、麻婆豆腐二人前。あと担々麺も」



鈴「あー食べた、食べた。御馳走様」

楓「話には聞いてたけど、ホントよく食べるねえ。お皿抱えて流し込む様にさ。あーあ、私のまで食べちゃって」

鈴「飲むと言ってもらおうか。麻婆豆腐はフードじゃない、ドリンクだ」

楓「……ま、いいけど。それで執筆の調子はどうなの?」

鈴「どうもこうも。書いても書いても何の反応もない。どんどん後から書いた人に抜かされる。作品のポイントがもっと少なければブン投げてるわ」

楓「『抜かされる』とか言える身なのがどれだけ幸せなのかわかってるの? それだけ読者がついてくれてるってことなんだよ?」

鈴「読者なんて本当はいないんだよ。ユニークやPVはきっと全部検索エンジンのクローラーなんだよ。時々びゅんっと変にグラフ伸びるし」

楓「そこは否定しないけど」

鈴「してくれよ! あー、なんで人気出ないんだ!」

楓「まあまあ」

鈴「ま、仕方ないな。所詮、俺に『なろう』は合わないのに無理して書いてるんだから。書いてるのは異世界といっても現代と変わらないからテンプレと言い難いし」

楓「……」

鈴「俺が悪いんじゃない。テンプレしかウケない『なろう』が悪いんだ!」

楓「本当にそう思ってる?」

鈴「な、なんだよ、いきなり。眉間にシワ寄せて」

楓「本当に、テンプレしかウケない『なろう』が悪い、と思ってるのかって聞いてるの」

鈴「『なろう』でテンプレがウケるのは事実じゃないか」

楓「それは事実ね。でも『テンプレしか』ウケないのは間違い。テンプレがウケることとアンチテンプレがウケることは両立するんだから」

鈴「でも日間上位はテンプレばかりじゃないか。明らかにアンチテンプレは不利だろ」

楓「不利は不利。そこは間違いない。だけど絶対的な不利じゃない」

鈴「へ? って、どうした! いきなり深呼吸して!」

楓「
第1位 勇者様のお師匠様 【総合評価】104214
第2位 傭兵団の料理番  【総合評価】69233
第3位 うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 【総合評価】58267
第4位 星をひとつ貰っちゃったので、なんとかやってみる 【総合評価】56889
第5位 薬屋のひとりごと 【総合評価】52469
第6位 誰かこの状況を説明してください 【総合評価】52425
第7位 ダンジョンを造ろう  【総合評価】49625
第8位 エデン 【総合評価】47554
第9位 俺の死亡フラグが留まるところを知らない 【総合評価】47370
第10位 勇者互助組合 交流型掲示板 【総合評価】47232
第11位 火刑戦旗を掲げよ!  【総合評価】47160
第12位 魔法使いと風精霊 【総合評価】46849
第13位 盟約の花嫁 【総合評価】45679
第14位 悪の組織の求人広告 【総合評価】43130
第15位 ラピスの心臓 【総合評価】43121
第16位 腕白関白・改定版 【総合評価】41586
第17位 弓と剣 【総合評価】40035
第18位 銀河連合日本 【総合評価】39127
第19位 スイーツ王子の人探し 【総合評価】38773
第20位 Bグループの少年  【総合評価】38199

 ……ふう」

鈴「……よく息が続くな」

楓「その気になれば216体の煙人形操れるから」

鈴「楓はどこぞのハンターか。で、それは何?」

楓「『なろう』で『「乙女ゲー」「悪役令嬢」「異世界」「転生」「チート」「チーレム」「VRMMO」「最強」「ハーレム」「逆ハー」「トリップ」「前世」』のキーワード使って除外検索した残り」

鈴「は?」

楓「『アンチテンプレ累計ランキング』ってとこね。さらに中身まで精査すると、実際のアンチテンプレはこの半分。完全にアンチテンプレと言えるのは二つ三つってとこだけど」

鈴「結局テンプレなんじゃないか」

楓「まったくテンプレ要素のない作品なんて『なろう』じゃなくても成立しないわよ。テンプレって王道要素でもあるのに。誰にも勝てず、何の能力もなく、女性にも相手にされず。そんな話っていったい誰得?」

鈴「まあそら……」

楓「『異世界』一つとってみてもそう。『転生』が加わったらテンプレでいいとしても、『異世界』そのものがダメならファンタジー自体が成立しなくなるじゃん」

鈴「じゃあファンタジーばかりなのがいけないんだ!」

楓「19位なんか普通にほのぼの純愛系ですけど」

鈴「そんな例外持ち出すな!」

楓「まあまあ少し落ち着いて。麻婆豆腐のおかわりいかが?」

鈴「遠慮無くいただこう」

楓「……少しは遠慮してほしいんだけど。店員さーん、麻婆豆腐おかわり辛めで!」

鈴「辛め?」

楓「裏メニューよ。メニューにはないけど、頼むと作ってくれるの」

鈴「まるでどこかのラーメン屋だな」



鈴「あー食べた、食べた。本当に辛かった」

楓「御飯のおひつまで空になってるじゃない。ここお代わりし放題だからいいけどさ」

鈴「麻婆豆腐と御飯はセットだろう。一方に棒があるなら一方に穴があるように」

楓「……今すぐ死んでくれないかな?」

鈴「それが初対面のヤツに言う台詞か?」

楓「私のも合わせて既に麻婆豆腐を四人前食べてる男に言われたくないよ。それはそうとして話の続きだけど、さっきのランキングは一つの重要な事実を示してる」

鈴「事実?」

楓「つまり人気キーワードに頼ってないってこと。それだけ内容を読んで票を入れた人ばかりってことだよ」

鈴「……一旦ブースト掛かればキーワードはあまり意味ないじゃんか」

楓「そのブースト掛かるかどうかでキーワードが重要なんじゃん。ブースト時点における1ユニークあたりのブックマーク率はかなり高かったと思うよ? それは実力以外に何だというの?」

鈴「……不正かもしんないじゃん」

楓「あなた自身が日間には何度も入ってるんだから知ってるでしょ。面白いと評価されれば本人の意思と無関係にどこまでも伸びていく。逆にダメな作品は日間入っても失速する。例え不正で日間に無理矢理入れたとしても同じだろうね」

鈴「……ひどすぎて炎上してるだけかもしれないじゃん。感想に悪い点ばかり並んで日間一位とる作品だってあるし」

楓「それってむしろテンプレの話だし、今上げた二〇作品はどれも定評ありますけど?」

鈴「いったい何が言いたい」

楓「『なろう』民のせいにするなってことよ。聞き苦しいし、みっともない」

鈴「今上げた作品なんてごくごく例外じゃないか!」

楓「あなたはその例外目指してるんでしょ? これまでのネトゲでも『廃人』と呼ばれてきた様に。純粋に趣味で書いてるんならポイントなんてどうでもいいはずだものね」

鈴「ぐっ……」

楓「それにこれらは決して例外なんかじゃない。その証拠を出してあげる」

鈴「へ?」

楓「でもその前に麻婆豆腐おかわりしようか。どうせ食べるんでしょ?」

鈴「いただこう」

楓「店員さーん、麻婆豆腐激辛で!」

鈴「まだ裏メニューあるのかよ!」

楓「さあ、食べられるかな?」



鈴「あー美味しかった」

楓「……食べたわね」

鈴「よゆーよゆー。この店の麻婆豆腐って、喉に突き刺さる辛さじゃないし」

楓「……ついでに私の分まで食べたわね」

鈴「あれ? 最初から俺に二人前頼んでくれたと思ったんだけど」

楓「まあいいや。その分これからドン底に叩き落としてあげるから」

鈴「何する気だよ」

楓「証拠って言ったでしょ? さっきの除外検索の話だけど実は300位まで調べてる。ここまで増やすと真のアンチテンプレがいっぱいある。現代学園物がレンジに入ってくるからね。それは鈴も学園ジャンルが戦場なんだからわかるでしょ?」

鈴「頷かざるをえないな……」

楓「で、300位のポイント数は6712。つまり、あなたが仮に本当にアンチテンプレを書いていたとしても、そこにすら入れないのよ」

鈴「そんなに高いのかよ!」

楓「私も正直ちょっとびっくりした。でも『なるほど』って思う作品多いよ。ポイントの割に有名なのが多い気がする。並のテンプレ日間一位とかじゃ結構忘れちゃうけど」

鈴「それはなんとなくわかる。結構エタるし」

楓「テンプレの宿命だからね。ざっと見た感じ、完結物も多いかな。女性恋愛物が多くなるのは仕方ないけど」

鈴「それだって一つのテンプレじゃないか」

楓「だったら私達は恋愛物読むなってかい。それに乙女ゲーム除外されてることをお忘れ無く……もっとも乙女ゲームって100位で7758ポイント。300位だと2457ポイントまで下がる。一見人気ある様で、実は上位層限られてるんだけどね」

鈴「それも調べたわけ?」

楓「ふっ、その気になれば私は216個の脳細胞を操れる」

鈴「それってむしろバカってことじゃないのか?」

楓「うるさい。それよりも、あなたには認識してほしい。上には上がいるということを。そしてあなたの作品のポイントが伸びないのは、それだけあなたの腕が未熟だということを」

鈴「ポイントで作家としての、そして作品の価値を決められてたまるか!」

楓「でもそのポイントが欲しいんでしょ? 言ってることが支離滅裂だよね」

鈴「うるさい! 俺はちゃんと考え抜いて最高の出来でアップしてるつもりだ!」

楓「それこそ現実見なさい。例えば最近、あなたの作品の感想欄は『つまんない』、『退屈』、『早く話進めろ』ってのが並んだよね。それは読者の意向を無視してる何よりの証拠じゃない」

鈴「ポイントが欲しいからって、読者に媚びるわけにもいかないだろうが」

楓「趣味で書いてるんならいいよ、好きに書けば。でもあなたは上を目指したいんでしょ? だったら小説は商品。読者の求めるものを書けないとだめ」

鈴「出版社の編集でもないくせに」

楓「私があちこちで賞の下読みやってたのは知ってるでしょ。確かに知人話にはなっちゃうけど、編集さん達はそう言ってるよ。だって商売だもん」

鈴「でも公募のコメントじゃ『好きな物を書いて下さい』って言ってるぞ」

楓「そんなのオトナなら、表向きはそう言うのが当たり前じゃん。『売れる物を書いてきて下さい』、そんな身も蓋もないセリフ言うわけないじゃん」

鈴「……」

楓「好きな物がそのまま商品になる人ならそれでもいいんだよ。でもそういう人は天才と言っていい。表向きの言葉が本音なら『天才しか求めてません』になりますけど?」

鈴「……」

楓「あなたは残念ながら天才じゃない。だったらやるしかないんだよ」

鈴「だったらどうしろっていうんだよ!」

楓「そのまま書き続ければいい。あなたの好きなように」

鈴「……からかってるのか?」

楓「そりゃ全くの第三者にはさっきみたいに言うよ。何かのせいにする、それ自体が聞いてて苛つくもの。ああ、それ以前に何も言わないけどさ」

鈴「腐れ縁だから甘やかすってかい」

楓「なんでそんな言い方するのさ! 腐れ縁かなんて関係ない! 私は鈴の作品が好きだから読んでる! だいたい鈴に『なろう』での連載すすめたの私じゃない!」

鈴「そらまあ……」

楓「それに完結すればわからない。完結して10000ポイント以上伸びた作品だってある。もしかしたら鈴の作品だってそうなれるかもしれないし」

鈴「かもって」

楓「何より、ここで連載やめたら無だよ。『読者に申し訳ないから裏切るな』なんてキレイ事は言わない。だけど信用は失うよ。例え結果につながらなくても、次にはつなげないと。納得できる終わり方してみせればついてきてくれる読者もいるんだから」

鈴「まあ……」

楓「鈴が日間なんて夢の夢だった頃にお気に入りユーザーにしてくれた読者さん達が、その後もずっと入れててくれてて。ブックマーク見たら、これまでの作品も応援してくれてたこと知って、それに気づいた時『すごい嬉しい』って泣いてたよね」

鈴「そういうこともあったな……」

楓「だったら、その時の気持ちを忘れちゃダメ。その一人一人があなたの財産なんだから。鈴がコンスタントに日間に入れる様になったのだって、そういう人達の応援あってのことなんだから。積み重ねれば、それがきっといつか年間になり累計になるから!」

鈴「……」

楓「そして私だってその応援してる一人なんだからっ!」

鈴「楓……」

楓「ひっく……ひっく……」

鈴「泣くなよ……」

楓「私は……あなたを信じてるんだから……好きな物書いて上に上がれる人って信じてるんだから……」

鈴「でも……無理だよ。楓の言う事には一理も二理もあるもの」

楓「ひっく……ひっく……」

鈴「商品にならない物を書いてるのに、それを『なろう』の人達のせいにした俺が悪いんだ。『アンチテンプレだから』とか変なプライドに拘ってた俺が悪いんだ」

楓「ひっく……ひっく……」

鈴「読者を裏切るとは言わないまでも、今の連載はうまく畳んで、今度はテンプレかそれに似た物を書くよ。何本か書けば一本くらい当たると思うし」

楓「ひっく……もし今の作品が書籍化できたら……何でも鈴の言うこと聞く」

鈴「はあ?」

楓「ひっく……大人同士が会うに相応しい場所だって行く……あんなことやこんなことだって鈴が望むことは全部やる……」

鈴「楓……」

楓「だから鈴は書いて……好きなように書き続けて……鈴はきっと、それで上にいける人だと思ってるから……私は……あなたを信じてるから」

鈴「わかったよ。頑張ってみる」

楓「本当!?」

鈴「そこまで期待されてるなら男である以上応えないと。そんな約束なんてしてくれなくていい。自分のことなんだから自分の意思で頑張るよ」

楓「うん……」

鈴「だからもう泣くな」

楓「うん!」

鈴「あ、いけない。次の待ち合わせがあるんだ。俺そろそろ行かないと」

楓「行ってらっしゃい。私は少し休んでから行くけど、支払はまかせて」

鈴「ごちそうさま。またスカイプでな」

楓「うん」




楓「さて、行ったな。とりあえずタバコ吸うか……
 ぷはーっ、あー美味い。初対面の男の前だからと思って我慢してたけどさ。
 あ、店員さーん担々麺激激辛でお願いしまーす。
 まったくあの男、麻婆豆腐六人前も平気で食べやがって。
 しかも私は全く食べてないし。非常識にも程がある。
 あ、きたきた」



楓「御馳走様。
 ここって麻婆豆腐も美味しいけど担々麺も絶品なんだよなあ。
 ま、鈴が大人な子供さんなのは知ってるからいいけどさ。
 しかしああも簡単に涙に騙されるとはね……ちょろいというか。
 女はいつでも涙を流せるのに。
 『約束』にしたってそう。
 鈴ってヘタレのイイカッコしたがりだから断るのわかってたから言ったんだし。
 ああ、そうそう。店員さーん、おひつ追加~」



楓「この担々麺のスープに御飯を入れておじやみたいにするとまた最高なんだ。
 くーっ、辛みが効いてて美味いねえ!
 こんなドンブリ抱え上げて流し込む姿なんて男性の前じゃ見せられないからなあ。
 大体、鈴。
 あなたのテンプレが『なろう』で通用するわけないじゃない。
 通用するなら最初からそう奨めてるし、鈴が実は研究してるのだって知ってる。
 それでこれまでダメなんだから時間をムダにするだけだっての」



楓「今度こそ御馳走様。
 あー辛い物食べた後のザーサイとお茶がこれまた美味しいんだ。
 お口直しと。
 でもね、鈴。
 さっきの言葉自体は全て本音なんだよ。
 私はあなたの作品が好きだから読んでる。
 読者としては変な方向に曲がって欲しくないんだ。

 正直なところ客観的な見立てだと、鈴の作品は完結してもきっと伸びない。
 それでも……信じたいんだ。
 これまでネットの中だけだったとは言え、十年近く付き合ってきたんだから。
 訳もなく、ずっと腐れ縁してきたわけじゃないんだから……

 今日こうして現実世界でも一緒に会ってる。
 それがどういう意味かくらいはちゃんと気づけ。

 頑張れ、鈴。
 あなたの成功、心から祈ってるっ!」



楓「……来たわね」

執事「お嬢様、お待たせしました」

楓「ちょうどよ。支払を済ませて車を回しなさい」

執事「イエス、ユアハイネス」