日○ンの美子ちゃん読んでたら、こんな妄想してしまいました。

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2014-04-25短編

「よーし、終わりだぞ~。後ろからテスト集めろ~」

 これが期末テスト最後の科目。
 つまりホントにホントのテスト終了。
 ようやく終わったぁ!
 あとは春休み始まるのを待つだけだ。

 答案を持って席を立つ。

 前の席の高橋さんが、無言で微笑みながら答案を差し出してくる。
 高橋さんは僕の通う明星高校で圧倒的な一番人気を誇る女の子。
 かわいい、とにかくかわいい。
 こうして愛想笑いされるだけでも心臓ばくばくするくらい。

 高橋さんの答案を上に重ねる。
 顔だけじゃない、字まできれいだ。

 字なんて読めればいい。
 字だけじゃその人の中身まではわからない。
 それが僕の信条。
 だって僕の字は汚いから。
 そう思いこまないと、僕は悪人ということになってしまう。
 小さい頃から親や先生に「字を直せ」と言われてきた。
 だけど僕はこの信条を盾にして、ずっと汚い字のまま通してきた。

 だけど高橋さんは、きっと字と同じく丁寧で真面目で心優しい性格だ。
 同じクラスになって一年近く。
 一度も話したことはないけど、僕にはわかる。
 だって高橋さんだもの。
 こんなかわいい子が性格悪いはずがあろうはずがない。
 高橋さんのためなら、僕は信条をもねじ曲げよう。

 修学旅行や文化祭というイベントがありながら一度も話したことがないのかよ。
 そんなこと言われたら涙流れちゃうけど……。

 横目で高橋さんを視界にキープしながら答案を集めていく。
 高橋さんがうなじから髪をかきあげるようにして伸びをする。
 きっと疲れたのだろう。
 休憩時間とかにこうしているのを度々見かける。
 これはきっと高橋さんのクセなのだ。

 ──翌日。

 いつも通りの授業風景。
 みんなにとっては憂鬱で灰色の時間だろう。
 だけど僕にとっては至福の時間。
 なぜなら高橋さんの後ろ姿をずっと眺められるから。

 小さな頭。
 細い肩。
 つい手を伸ばしてわしっと掴みたくなる。
 そんな衝動に耐えながら、高橋さんの髪を眺める。
 陽に照らされ、ツヤツヤと光の帯が輝いている。
 ああ、これぞ女の子。
 つい鼻を近づけてクンクンしたくなる。
 でもダメだ。
 そんなことしたら僕は変態の烙印を押されてしまう。

 ──あっ!

 高橋さんが後頭部に両手を差し入れた。
 もしかしてあのクセ?
 もしやってくれたら、高橋さんの髪が僕の顔にかかるかも。
 ああ、さわさわされたい。
 きっとその瞬間、女の子特有のいい臭いがふわっと漂うんだ。
 ああ、全力で鼻の穴を広げたい。

 くるか、くるのか?
 髪が浮き上がる。
 しかし、高橋さんの上へ向けた曲げた肘がぴくっと震える。
 動きが不自然に止まると、浮いた髪は元通りに。
 そのまま両手をうなじへ向けてかき流すように下げていった。

 ……残念。

 でも当然だよな。
 もし本当にそんなことしたら、後ろの生徒、つまり僕にとっては迷惑極まりない。
 僕がそう思って無くても、それが世の中の常識。
 つまり高橋さんは後ろの僕を気遣ってくれたのだ。

 きっとそれは僕の思いこみ。
 だけど、それでもいい。
 ついついこうして高橋さんの一挙一動に妄想してしまう。
 そうしていられる間もまた幸せだから。

 ──翌日。

 高橋さんは学校を休んだ。
 風邪ということらしかった。
 もう三月なのに。
 大丈夫かなあ。
 お見舞い行きたいなあ。
 せめて一言だけでも話したことがあればなあ。
 でもホントにそんな勇気あれば、その前に一言くらい話してるよね……。

 くよくよしてても仕方ない。
 せめてノートを真面目にとろう。
 高橋さんが登校してきたら「昨日のノート貸して」って頼まれるかもしれない。
 授業が終わった後に振り向いて。
 もちろんそんなことあるわけないんだけどさ。

 ──翌日。

 高橋さんが登校してきた。
 高橋さんの御尊顔はマスクに隠されてしまっている。
 もう具合いいの?
 口に出してみようかと思ったけど、声が出ない。
 マスクしてるのに具合いいわけないじゃん。
 そんなこと言われたらどうしようかと思って。

 授業が始まる。
 さすがに今日は高橋さんを変な目で見ることができない。
 そんなことしたらあまりに申し訳ない。
 高橋さんが時々咳き込む。
 その度に動く頭と肩を見る度、もう一日休んだ方がよかったんじゃないかと思う。
 だって明日は終業式。
 授業は今日が最後なのだから。
 そしてそれは僕の至福の時間の終わりを意味する。
 なぜなら四月になるとクラス替えがあるから。
 僕の志望は理系、高橋さんは文系と噂に聞いている。
 再び同じクラスになることは絶対にないのだから。

 ──授業が終わった。

 高橋さんが席を立つ。
 あーあ、やっぱり妄想は妄想。

「佐藤君、よかったら昨日のノート貸して?」

 こんな風に都合よく言われることなんてありえるわけが……わけが……。

 ──あれ?

「佐藤君?」

「うあああああああああ!」

 つい叫んでしまった。
 高橋さんも後ずさりしてしまってる。

「あー、びっくりした。あたしなんか変?」

 え、え、えと。
 何を答えればいいんだ?
 とりあえず、ぶんぶんと首を振る。

「ううん。全然変じゃない」

「そう、よかった」

 高橋さんがにっこり笑う。
 目しか見えないけど、それでもわかるくらいににっこり笑う。
 そして、手を頭の後ろに回して髪をかき上げる。
 いつものクセだ。

「げほごほ」

 伸びかけたところで高橋さんが咳き込む。
 深呼吸してむせたのだろう。
 こんなお茶目なところもかわいらしい。

 再びにっこりと笑う。
 今度は多分照れ隠し。
 それを見て、逆に少し気分が落ち着いた。

「いいけど、どうして僕に?」

「佐藤君って真面目そうだから、ノートも丁寧かなと思って」

 ごくごく普通の理由。
 でも言葉を交わせただけで嬉しい。
 しかもたかがノートとはいえ頼ってもらえたんだから。
 ああ、気合いを入れてとっておいてよかった。

 平静、あくまでも平静を装ってと。

「うん、いいよ。ちょっと待ってて」

 昨日の科目のノートを取りだして、高橋さんに渡す。

「ありがとう」

 高橋さんが受け取ってノートを捲る──も動きが止まった。
 固まっている。
 明らかに固まってしまっている。

 高橋さんはノートを閉じると、そっと僕の机の上に置いた。
 少しの間の後、マスク越しにか細い声が聞こえてくる。

「ごめんなさい……読めない……」

 げっ!
 伏せた目から、高橋さんの申し訳なさそうな気持ちが伝わってくる。
 頑張ったのに。
 僕なりに綺麗に書いたつもりなのに。

 でも、そんな僕の事情は、高橋さんにとって関係ない。
 今、僕が目の前にしている机の上のノート。
 これが現実なのだ……。

 高橋さんはぺこりと頭を下げてから、足早に立ち去る。
 あーあ、せっかくのチャンスが……。
 こんなことなら、もっと字の練習しておけばよかった。
 親や先生の忠告を聞かなかった僕がバカだった。
 高橋さんのためなら信条を曲げてもいい。
 そう思った時点で字の練習を始めるべきだった……。

 ──次の授業が始まった。

 あーあ、鬱々してしまう。
 中途半端に妄想が実現してしまった分、余計に鬱だ。
 今の僕はどんな顔をしているのだろうか。
 高橋さんには絶対見られることのない席なのが幸いだ。

 こうして眺めていると、いつもと変わらない光景なんだけどなあ。
 いつもの小さい頭に細い肩。
 高橋さんの右腕が小刻みに揺れる。
 ノートを取っているのだろう。

 ──あれ?

 高橋さんの肘が、曲がったまま上に動いていく。
 高橋さんの手が見えた。
 そして一枚の折りたたまれた紙片が僕の机に置かれた。

 高橋さんの手が元の位置に戻る。
 それと同時に僕は紙片に手を伸ばした。
 すぐさま目を通す。

【さっきはごめんね。
 つい驚いて、言葉続かなくなっちゃって。

 でも、大きなお世話だとは思うんだけど……
 字の練習はした方がいいと思う。

 実はあたしも昔は字が汚かったんだ。
 親や先生からは溜息つかれるし。
 友達からは「顔と字が全然合ってない」とか笑われるし。
 だから悔しくて練習したんだ。
 佐藤君って、せっかく真面目で優しそうに見えるのにもったいないよ。

 もしよかったら。
 www.kireinajiwaseigi.com
 無料で練習用のシートをダウンロードできるサイトです。】

 う……う……うおおおおおおおおお!
 余計なお節介?
 とんでもない、帰ったら今日から練習始めますとも。
 絶対に頑張りますとも。

 そうだ、返事をしないと。
 僕の字は確かに汚い。
 だけど少しでも読みやすい様に、時間を掛けて丁寧にゆっくりと書く。
 昨日のノートよりも、もっともっと。

【気にしてない。ありがとう。今日から頑張る。】

 これだけ書くのが精一杯。
 高橋さんの背中をつんつんとつつく。
 高橋さんが左手を右脇に回して伸ばしてきたので、紙片を渡す。

 すぐに返事がきた。

【よかった。
 じゃあ次の手紙は、どのくらい字が上達してるか期待してるね。
 頑張って!】

 おおおおおおおおお!

 ……って、ちょっと待て。

 明日で終業式じゃないか。
 次の手紙なんか渡す機会ないじゃないか。

 もしかして、高橋さんはそれをわかっていて書いたのか。
 僕を上げて落とすために。
 ううん、そんなことはないはず。
 きっと忘れてるか天然でボケちゃったかのどっちかだ。

【明日でクラス替えだよ】

 書き終えた……けど、くしゃくしゃに丸める。
 こんなこと書いてどうする!
 ここは一生に一度の勇気を振り絞る場面じゃないのか!
 ここを逃したら、もう僕の人生で二度とこんなチャンスは来ない気がする!

【クラス変わっちゃっても、字が上達したら高橋さんに見て欲しい。
 だから、もしよければメアド教えて下さい】

 いいのか?
 本当にいいのか?
 変に思われないかな?
 でも、なるようになれ!

 再び高橋さんの背中をつんつん。
 左手に手紙を置く。

 ああ、やっちゃった。
 祈る。
 高橋さんの右肘を見ながら、とにかく祈る。
 せめて返事だけでも下さい。

 ──高橋さんの右肘が動いた。

 右手が回り、折りたたまれた手紙が置かれる。
 僕は緊張しながら、それを開いた。

【takahasizettaijigakireininatteyaru@xxxxxx.com
 佐藤君のアドレスも教えて下さい。
 ちゃんとあたしからのメールが届くような字でね!】