いよいよ就活シーズン。
期待に胸を膨らませつつ、一方でキリキリと胃を痛める生活を過ごすことになろうかと思われます。
私もそうでした。
きっとこれからわかりますが……就活の間は色んな怪情報が乱れ飛びます。
「あそこはもう終わった」とか「あそこは学歴フィルタがある」とか。
あるいはやっかみなどで誹謗中傷撒き散らされることもあります。
今から記すのは、そうした怪情報に振り回されず真実を見定めて就活してほしい。
そして失敗を怖れず挑戦する姿勢を忘れないでほしい。
そういう話です。
きっと霞が関でも民間でも当てはまることでしょう。
同時に、私にとっては「イイ想い出」の話でもあります。
財務省で東大以外のキャリア内定者が出た!
私の前職は公安調査庁職員、つまり就職活動は霞ヶ関でした。
九〇年代後半は不況の真っ盛り。
東大に限らず早慶などからもキャリア官僚志望者が大量増加しました。
しかし、その相当数が玉砕しました。
国家一種試験(現国家総合職採用試験)には合格したものの、官庁訪問の情報がなくて(あるいは振り回されて)内定を獲れなかったのです。
そんな中、財務省で、ある早稲田の学生が内定を勝ち取りました。
A君としましょう。
(※正しくは前身の大蔵省ですが、本稿では便宜上「財務省」とします)
財務省は言うまでもなく偏差値競争のゴールかつ頂点。
東大以外から内定者が出たということで、学生の間では結構な評判になり、あっという間に噂が流れました。
「東大以外でも内定出すんだ」とか「すげえ」とか「どんなヤツなんだろ」とか。
しかし国家一種二次試験に落ちた!
さて、当時のキャリア採用の内定は一次試験合格発表直後に出されていました。
(今は最終合格発表後です)。
採用されるためには二次試験をクリアし、最終合格する必要があります。
とはいえ、財務省においては一次試験時点で法律職50位内・経済職30位内という順位フィルタがあるとされていました。
(実際に私の知る限りですと、内定者の一次試験時点における成績は推定上記順位以内ばかりです)
一次試験でこの順位にいれば、通常はまず最終合格します。
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この噂もまた、あっという間に霞ヶ関中を駆け巡ります。
だって落ちるはずのない学生が落ちたのですから。
まことしやかに流れた噂は、
当時は政府が「東大以外の採用比率を上げるように」と訴えていた頃。
一方で各官庁は抵抗していると言われていました。
そのため、学生達は、
さらに極めつけ。
なんといっても財務省。
東大もそれ以外も少なくない人がA君に嫉妬していましたから。
まさにメシウマ。
さらには……
人格攻撃まで。
みんなA君とあったことないのに。
いえ、あったことないから好き放題言えるのですけど。
ただ、私も官庁訪問に失敗した一人ではありましたが、悪口には荷担しませんでした。
これは綺麗事だけではありません。
霞が関はどこで誰が繋がっているかわからないので「悪口を言った」ことが知れ渡る可能性があります。
来年もチャレンジする以上は、さらに霞が関入りした後でマイナスになるおそれがありますから。
「悪口は返ってくるもの」というのが私の考えです。
一方で、A君は赤の他人ですから庇うこともしませんでした。
ただ「人間って怖い……」。
人の闇を見る気分で「ふーん」と流していました。
実は「友達の友達」だった
そんなある日、某省に決まった早稲田の友人の女の子と話していたときのこと。
Bさんとしましょう。
私「早稲田で財務省の内定とって二次落ちしたのいるらしいじゃん?」
B「あっ、それ、あたしの友達だよ」
私「そうなんだ! 噂流れてるんだけど知ってる?」
B「どんなどんな?」(←まったく他人の噂に興味ない超マイペースな子)
(話し終える)
B「ひどい! A君は本当に優秀だよ! あたしなんて比較にもならない! 一次試験の自己採点だって間違いなく財務省入れる点数だったよ!」
私「俺も噂は信じてないけど、普通そのくらいの成績なら二次落ちはすまい」
B「本人も理由がわからなくて頭抱えてる。『人事院面接で何かまずいこと言ったのかなあ』って」
私「人事院面接で落ちるようなヤツに財務省が内定は出さないんじゃん?」
B「すっごい、いい子だよ。人間できてるし、人望もリーダーシップもあるし。それなのに、もう見てられないくらい落ち込んで……」
会話でも述べているように、私は噂を信じてませんでした。
これは国家一種試験における「あるシステム」を先に霞が関入りした友人から聞いていたので。
当時、二次試験の人事院面接A評価(=最高評価)者は強制的に国家一種最終合格となっていました。
例え筆記試験で合格点に足りなくとも。
(もしかしたら、それだけ人事院面接の配点が大きかったということかもしれませんが)
その恩恵にあずかったのが友人。
筆記試験最下位、そもそも一次の時点でまず不合格だったことを明かされたそうです。
これはA君にもあてはまる話。
もしA君が人事院面接A評価をとったら最終合格なのだから、財務省は採用しなくてはいけない。
少なくとも抜け道とか、そういった事情はないと言い切れるわけです。
その後、さらに事情を聞いて、二人の間で「A君には気分転換が必要」という結論に。
何より来年も官庁訪問するなら先立つ物が必要。
私がバイトを紹介することとなりました。
A君との出会い
A君はバイトの面接に無事合格、晴れて一緒に働くこととなりました。
いよいよA君と初対面。
一目見た瞬間、
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もうあれこれ聞かずとも腑に落ちました。
役所にはカラーがあります。
それゆえ聞かなくても内定官庁がわかる人がいます。
「外務省だろ」とか「警察庁だろ」とか。
A君もその一人。
「こいつは財務省だ」と一目でわかるタイプでした。
(後にA君を見た友人達も全員口を揃えています)
ただ勉強の方はそうでもありませんでした。
経済に関する知識はまるでなく、受験テクニックで上位合格した感じ。
地頭が財務省級なのは話しているだけでわかりましたので、そういう方面での「優秀」です。
A君が試験に落ちた理由
ある日のこと。
国家一種の試験の話になったときに判明しました。
A「今年の二次の経済原論って難しかったよね」
私「そう? 入門マクロ経済学そのまんまじゃん」
A「えーっ!? 俺、まるでわかんなくて白紙で出したよ?」
……全ての疑問が氷解しました。
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私「アホだからアホって言ってる、二次落ちするに決まってるじゃん」
A「いや、仮に零点でも絶対合格点あるはずだし」
私「そうじゃなくて。国家一種の二次試験は科目ごとに足切りラインがあるんだ」
つまり
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A君固まりました。
しかし、
もう終わったことだし、来年頑張る
妙にすっきりした顔。
これが財務省内定→国家一種不合格の真相でした。
再び財務省内定!
さて、私とA君。
なぜか妙にウマが合いました。
なんでしょう? 価値観が合ったからか、趣味が合ったからか。
あっという間に仲良くなりました。
しかし来年一緒に官庁訪問頑張るのはいいとして、私は1つ懸念がありました。
A「うん。だって俺、財務省が好きだし」
私「でも前年内定とった学生が二次落ちした場合、翌年は内定出さないって言わない?」
これに対するA君の答えはあっさりしたもの。
財務省が本当に採用したかったのなら、また内定くれるよ
気負うでもなく、本当にさらりと。
心配した私の方が「そうだよな」と拍子抜けしました。
迎えた翌夏、一次合格発表当日。
たまたま法務省前でA君とすれ違う。
走ってきたので、もうA君が合格してるのはわかってる。
A「当然! 天満川君は?」
私「合格してたよ」
なんて嬉しい。
まさに官庁訪問の佳境、自分のことで精一杯だろうに。
今でも本音で心配してくれていたのが一目でわかる険しい表情が思い出されます。
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そう答えると、A君は満足した顔で財務省へ走って行きました。
数日後、二人とも無事に第一志望の官庁への採用が決まります。
つまりA君は、再び財務省から内定を勝ち取りました。
そして私は二次試験のヤマを張り、予想問題と解答を作ってA君に渡します。
「今年は絶対に『入門マクロ経済学』読んでおけよ」と念を押して。
(※入門マクロ経済学:当時の国家一種における試験のネタ本)
やっぱり二次試験はろくにできなかったみたいでしたが最終合格。
なんだかんだと、かなりの高順位でした。
噂に振り回されず、失敗することを怖れない
実は前項の、
これは噂でなく、多くの官庁で事実でした。
正確には「最初からやり直し」。
私の友人達で内定決まりながら二次落ちした人は「去年と今年は別だから」と人事から念を押され、かつ翌年は同じ官庁から内定をもらえませんでした。
(ただし、全員が別の官庁で内定をとっています)
私の知る限り、再び同じ官庁から内定を獲ったのはA君だけ。
見事、その常識すら覆したわけです。
あまりに昔の話ですし、現在とは採用システムも違います。
現在の官庁訪問には役立たないでしょう。
しかし、
- 噂に振り回されない
- 失敗することを怖れない
A君の姿勢は現在でも通用するものだと思います。
もちろん官庁訪問以外でも。
「どうしても行きたいんだ」とか「自分には遠い存在」とか。
そう思う前にまずは動いてみるのが吉です。
A君の言う通り、回らなければ採用されることもありません。
失敗しても失うものもありません(現在の制度ですと第1クールの枠は奪われます……)
だったら挑戦してみませんか?
噂の中には有益な情報があるのも確かですが、何が真実か学生の側には判断しようもありません。
決して振り回されぬよう。
皆様の健闘を祈ります。
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