公安調査庁における「任用替え」制度について

きのここらむ
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こちらの記事のコメント欄に以下の質問をいただきました。

公安調査庁パンフレット解説・官庁訪問対策 ~スパイになりたいあなたへ【2021年度版アップデート】
公安調査庁は情報機関、働く人はインテリジェンス・オフィサーと呼ばれるスパイです。同庁の採用パンフレットと官庁訪問対策を元職員が解説します。謎の実態を知りたい方、ちょっと立ち寄ってみませんか?

初めまして。年次は伏せますが、将来、国家公務員試験受験予定のものです。
昔からの憧れで、どうしても公安庁のキャリア官僚になりたいんですが、総合職採用数は少なく、マッチングの問題から官庁訪問で確実に採用される、というのは難しいと聞きました。防衛省、厚労省等他の省庁も考えていますが、公安庁には任用替え制度があるというのをこのサイトで知りました。
これは国家一般職試験で、例えば東北公安調査局に採用になったとして、採用1年目の7月に総合職試験を再び最終合格した場合、いきなり東北から本庁へ移されて、翌年入省のキャリアとして扱われるということでしょうか。
もう一点、最初から任用替え前提で一般職で地方公安局の面接に行くのはよろしくないでしょうか。

長くなりましたが、教えて頂けると幸いです。

本記事は、私からの回答となります。

他官庁の職員様が検索しての流入もある様子。
(検索ワードでなんとなくわかります)
私はあくまで公安調査庁(以下、公安庁)の元職員なので、他官庁については確実なことが言えません。
本記事も原則として公安庁の話となります。

ただ、その上で、私の聞き及んだ範囲で記させていただきます。

【2020年3月29日 大幅に改稿】

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任用替えについて

任用替えとは

解答者の写真
ノンキャリアが総合職試験に合格した場合、キャリアとして採用し直してくれる制度のことです
 

質問者の写真

公安庁は、任用替え制度を実施している霞が関でも数少ない官庁なんだよ
 

ただし試験合格といっても事務系職種となります。
新卒採用において募集している職種と同じということです。

公安庁の場合は数学職の募集も行っていますが、そちらに合格した場合はどうなるのかわかりません。
もし数学職でも任用替えをしてもらえるのであれば狙い目でしょう。
一般的に事務系と技術系とでは、難易度にかなりの開きがありますので。

公安庁のキャリア新卒採用においては、学歴がほとんど関係ありません。
任用替えにおいても同じ。
総合職試験に合格さえすれば任用替えの資格を得られます。

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公安庁の任用替えの状況

まず国家総合職試験に合格したら、本庁人事課に「任用替えしてほしい」と連絡を入れます。
そして、本庁人事課に赴き、面接を受けます(旅費は当然自腹です)。

面接の基準は、新卒採用に比べるとかなり甘かったです。
形だけといってよかったくらい。

考えられる理由は、

  1. 公安庁のキャリア人数が少なかったこと
  2. 公安庁の業務に通じていること
  3. 公安庁の人事が優しいこと

建前としては1と2です。
ただ実際は3が一番大きいと思います。
人数が少ない上に極秘の口に出せない業務。
自然とアットホームになりますので。

本当は落としたい。
だけどせっかく頑張って合格したのにかわいそう。
だいたいの内幕は聞いているのですが、思い切りそんなニュアンスでした。
(もちろん当事者にはオフレコ)

ただ、私が退職してからは事情も変わったようで。

解答者の写真
現在では任用替えを認めてもらえなかった(=面接に落ちた)人もいます
 

 

この変化は、恐らくキャリアが増えすぎたからじゃないかなと思います。

昔は採用少なかったですし退職する人もいましたが、現在はそんなこともありません。
加えて公安庁には選抜したノンキャリアをキャリア同等に扱うグリーン(特進)という制度もあります。
むしろキャリアの数を絞っていかないとポストの数が足りなくなってしまってますから。

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任用替え後の処遇

質問者の写真

任用替えの後は、新卒採用で入ったキャリアと全く同じだよ
 

制度上はもちろん、風土的にも任用替えだからといって不当に差別を受けることはありません。
私が公安庁で一、二の仲良い職員は任用替えですが、普通にキャリア同士の友人って感覚です。

ただ微妙に異なる点もあります。

一つは、新卒採用よりも調査部に回されやすい傾向があります。
現場で勤務してきている分だけ新卒採用のキャリアより実務に通じていますので。
むしろ武器を評価されての扱いです。
本庁慣れしていないので、仕事だけでも慣れた部署に就かせるという思惑もあります。

一つは、任用替えして数年はいいポストが回ってこない傾向があります。
人事課は新卒採用のキャリアを数年先まで見越してローテーションを組んでいます。
任用替えは後から割り込むのと同じですので、しばらくは空いた穴に入れていくしかありません。
ただし数年が過ぎれば完全に同じ扱いとなりますし、主流ルートに乗る人もいます。

以下、質問の内容に個別に答えていきます。

採用1年目の7月に総合職試験を再び最終合格した場合、いきなり東北から本庁へ移されて

本庁への異動は「10月がいいか、翌年4月がいいか」を人事課から聞かれるそうです。

翌年入省のキャリアとして扱われるということでしょうか。

待遇は翌年4月に入庁したキャリアと同等です。
つまりキャリアとしては1年目からのやり直しとなります。

ただしノンキャリアとしての勤続年数は号俸に反映されます(社会人採用と同じ扱い)。
これまでに挙げた実績があるなら当然評価されます。
仕事・給与面において新人扱いされることはありません。

また1年目からやり直しと言っても、

解答者の写真
最終ポストはノンキャリアとしての入庁年次のキャリアと同じになります
 

これは公安庁が年齢に配慮した人事をしてくれるため。
総括補佐になる辺りから昇進ペースが上がりはじめ、定年間際で並ばせてくれます。
つまり、任用替えでも指定職に就けます。

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任用替え狙いで一般職として採用されるのはアリ?

最初から任用替え前提で一般職で地方公安局の面接に行くのはよろしくないでしょうか。

まず、「行く」ことは自由です。
黙ってればいいだけの話ですから。

以降、場合わけして答えます

総合職に合格して、その上で一般職として面接に行った場合

自分から聞かなくとも、面接で人事から念を押されます。

解答者の写真
今年の合格資格で、キャリアとしての採用はできないからね
 

それができるなら、総合職で全滅した人が公安庁に殺到しますので。

そして恐らく一般職としては採用されるでしょう。
総合職合格している人を落とす道理はありませんので。
頑張って、もう一度合格し直して下さい。

総合職落ちて、一般職として面接に行った場合

質問者の写真

自ら口にしたらマイナスになるだけじゃん?
 

まず総合職を受けることは誰でもできます。
何のアピールにもなりません。

さらに「入った後、総合職に合格できなければ辞めます」とも受け取れます。
地方上級などを受け直して辞める人がいるので、その予備軍と見られかねません。
人事からは当然嫌われます。

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他官庁の任用替え

現在は知りません。
ただ私が霞ヶ関にいた頃ですと、

解答者の写真
多くの官庁が実施していませんでした
 

 

普通に考えて当然でしょう。

キャリアとして五大官庁に採用してもらうより、ノンキャリアとして五大官庁に採用してもらう方が簡単なのは自明です。
そして総合職試験に合格すること自体は、そんなに難しくありません(こんなこと言っちゃうと顰蹙買うかもですが)。
だったらノンキャリアとして採用されて総合職を合格し直せばいいということになります。

そのため、某省ではこんな話を聞いたことがあります。

職員:国家一種(現:総合職)合格しました!
人事:おめでとう。じゃあ我が省は退職してね、キャリアになりたいのならさ

採用する気ゼロ。
噂話というより、霞ヶ関の常識といった感じです。

ただしやっていた官庁はあります。
間違いないのは防衛省。
某汚職事件で出てきた幹部が任用替えでした。

質問者の写真

へえ、防衛省もやってたんだ
 

という、本題と全く関係ないところに関心持ちつつニュースを眺めてました。
ただ、それこそ超のつく大昔の話ですので念のため。

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まとめ

しかし採用された官庁で任用替えを実施しているとは限りません。
実施している公安庁でも任用替えしてもらえるとは限りません。
その点は覚悟した上で決断してください。

その上で任用替え狙いで一般職として入省・入庁するのは止めません。
可能性はありますから。

ここまで説明した通り、任用替えはキャリアになることを諦めきれない方にとって魅力ある制度です。
仮に任用替えを認めてもらえなくても、他官庁を訪問することまで許されないことはないでしょう。
個人的にはですが、変に拘って就活の機会そのものを逃してしまうより、働きながらキャリアを目指すのはアリだと思います。

解答者の写真
あとはあなたが決めること
でも、もし狙うのであれば、うまくいくことを祈ってます
 
キノコ煮込みに秘密のスパイスを

OBによる公安調査庁のお仕事をリアルに描いたラブコメ&サスペンス。
小説家になろうでは総合ランキングに入ったことのないド底辺のネット小説です。
一方で、
・週刊誌に「日本のスノーデン」呼ばわりでYahoo!ニュースになり。
・偉い作家先生から「乱歩賞獲れたミステリ」と絶賛され。
・出版社では「これを世に出すのは危険」とお蔵入りにされ。
あれこれ曰く付きの小説、あなたも読んでみませんか?
お気に召しましたら拡散していただけると嬉しいです。

天満川鈴
この記事を書いた人

慶應義塾大学商学部卒
1997年公安調査庁にキャリアとして入庁
在職時は国際テロ、北朝鮮を担当
特に現場(スパイ工作)で実績を挙げ庁内表彰を受ける
2004年介護のため退官。

ADHD、精神障害者手帳3級所持。

WordPress記事は素人の備忘録です。

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コメント

  1. プー太郎 より:

    公安調査官の仕事って、目的は違えどやってることはマスコミと似てるんですかね。

  2. belle より:

    コメントありがとうございます
    その理解で概ね間違ってません
    (かつての職員募集パンフレットには「新聞記者みたいな仕事」と書いていたくらいです)
    特にマスコミの中でも「調査報道」というジャンルが近いです
    調査報道の代表と言いうるジャーナリストは清水潔さん
    http://shimizukiyoshi0607.blog.fc2.com/
    著書「桶川ストーカー殺人事件 ―遺言―」(新潮文庫)は圧巻
    https://www.amazon.co.jp/桶川ストーカー殺人事件―遺言-新潮文庫-清水-潔/dp/4101492212/ref=pd_rhf_dp_p_t_4_AJZ9
    よろしければ読んでみてください

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