1番目
もし、俺が小説の主人公なら、こんなにつまらない小説はきっと他にない。
俺はそこらにいる大学一年生。
平々凡々とはよく言ったもの。金持ちでもなければ運動も得意ではない。
外見も受験生生活で八〇㎏まで太ってしまった。
身長も一六二㎝だから男性としては低い。
平凡どころかマイナスだな。別にどうでもいいけどさ。
俺は漫画にアニメにゲームが大好きな世に言う二次元ヲタク。略して二次ヲタ。
世間は二次ヲタをコンプレックスの代名詞であるかの様に言うけれど、俺は二次元の女の子が好きだからヲタしてるのであって、それを恥じるつもりも隠すつもりも全然ない。
ラノベを人前で開くのは恥ずかしいって言うけど、そんなの堂々と開けばいいじゃないか。さすがに十八禁を人前で見る事はないけれど、それはまた別の話だ。
恋人については年齢イコール彼女いない歴。
もちろん彼女は欲しい。だけど女の子から告白された事なんか一回もないし、自分から告っても振られた挙げ句にトラウマまで抱える羽目になったし。
とは言え女友達とも普通に話してるし男友達とも仲良くやってるから「ぼっち」だなどと言うつもりはない。
ただし俺には他人と少しだけ違うところがある。
──それはリアルでスパイな姉貴がいることだ。
姉貴は霞ヶ関にある公安調査庁(公安庁)という役所に勤めている。
俺はその手の事に詳しくないので警察との違いもよくわかってない。
だけど姉貴が世に言うスパイらしき仕事をしてることは間違いない。
しかし一風変わった設定に見えるかもしれないが本当にそれだけでしかない。
スパイの姉貴がいたところでその弟の日常は他人と何ら変わるわけじゃない。
玄関の表札だって偽名じゃない。
ちゃんと本名で【天満川|観音《みね》 小町】と書いてある。
──そう、俺の名前は「天満川小町」。
この名前は何だよ。女じゃないんだから。
頼むから人前で名乗れる名前をつけてくれよ。
親は「あんた生まれた時ぶち可愛うてから女の子じゃあ思うたけん」と説明するけど、本当は地元広島市の地図から適当に拾った町名で名付けた事を姉貴から聞いて知っている。
うちの親は死ねばいいのに。
俺達姉弟は東京都世田谷区にある二子玉川駅──通称「ニコタマ」で二人暮らし。
ニコタマは住んでみたい街ランキングで常に上位に位置する世間的にはお洒落なエリア。
でも俺達が住んでるのは六畳の和室が二間に四畳半の|DK《ダイニングキッチン》がついた築の古い木造アパート。間取りと家賃と駐車場優先で探したので駅からも結構離れてる。
つまり俺達の根城は世間がニコタマに抱くイメージとは程遠い。
だけど二階で陽当たりがいい。それが俺と姉貴のちょっとした自慢。
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