本記事では、「公安調査庁、5年連続の増員計画 東京五輪へ対テロ強化」という朝日新聞のニュースについて検討します。
公安調査庁が5年連続で増員
公安調査庁(以下、公安庁)が5年連続で増員。
悲惨な時期を知る者としては「ふぇ~」と驚くものがありますが、昨今の情勢を鑑みれば当たり前でしょう。
大昔、私が全く治安と関係ない省庁の幹部にぼやいたときのこと。
幹部 それだけ世の中が平和な証拠さ。公安調査庁の働きが公然と世間に認められる時は、きっと社会がかなりの危機的な状況に陥ってしまってるよ。
なるほどなあと嬉しく思ったものです。
そうやって考えると、今回の増員はろくなものじゃないともいえるのですが。
朝日新聞の報道
これに早速食いついたのが朝日新聞。
以下、同報道を援用する形で、私の見解を述べさせていただきます。
朝日新聞の報道の検討
まず記事全体の印象。
日常的な活動がなかなか見えにくい組織で、効果を疑問視する声もある。
これが誘導したい結論ではあるでしょう。
そこは朝日新聞なのだからしかたない。
しかし全体の構成としては公正中立な印象を受けます。
冒頭半分は一般論ですし、賛成・反対双方の意見を載せています。
朝日新聞も保守派陣営から叩かれ続けてまいったのか、それともかつてのトップ新聞としてのプライドなのか。
一般論
公安庁の人員増減の状況については、その通りの状況です。
公安庁側のコメント
「職員を増やせば、テロとの関わりが疑われる人物や団体の情報を幅広く集められる」と同庁幹部は言う。同庁OBの安部川元伸・日大危機管理学部教授は「ISが日本を攻撃の対象として名指しするなどしており、五輪に向けた対策は必要。テロリストが日本を狙うときは、その準備として協力者を国内につくる。端緒をつかむ人材の育成は重要だ」と話す。
安倍川さんは主にリエゾンを専門とする方。
リエゾンというのはCIAなど海外情報機関と情報交換を行う業務です。
公安調査庁では本庁と地方局レベルのそれぞれで行っており、本庁の場合は本庁調査第二部第二課(2-2)が一括して担当しています。
外国との情報交換ですから、必然的に北朝鮮・ロシア・中国情勢や国際テロをめぐる情報を扱うことが多くなります。
特に国際テロへの造詣が深く、2-2の総括課長補佐・課長を務めた後、東北局長で退官されました。
安倍川さんのコメントには特に何も言うことありません。
そもそも公安庁関係者なら、誰であっても同じ事を言うでしょう。
それくらいに当たり障りのない話ですし。
青木理氏のコメント
対する青木理氏のコメント。
これに対し、著書に「日本の公安警察」があるジャーナリストの青木理氏は「破防法に基づく団体の規制という組織の成り立ちを考えれば、国際テロ対策の名で態勢を強化するのは疑問だ」と反論。「職員が増えても、そもそも権限の限られた規模の小さい役所だ。テロを防ぐ十分な調査力を備えるとは思えない」と指摘する。
こちら、前段と後段で私の見解も変わるので、項目をわけさせていただきます。
前段
「破防法に基づく団体の規制という組織の成り立ちを考えれば、国際テロ対策の名で態勢を強化するのは疑問だ」
成り立ちがどうでも、今は国際テロの調査を業務としてやっている。
しかもテロ対策が必要であることは政府も国民も認めている。
そういう現状を無視して、いったい何を言っているのか。
底の浅さはリテラと変わらず。
もう「化石」と呼ばせていただきたい感じです。
実はこの論点、批判のための批判です。
もっと広げて論じたいところですが、また別の機会に。
後段
「職員が増えても、そもそも権限の限られた規模の小さい役所だ。テロを防ぐ十分な調査力を備えるとは思えない」と指摘する。
こちらは……正直なところ、私も正しいと思います。
私は在籍当時、自分で言うのも面映ゆいのですが、国際テロ分野において評価を得ていました。
特にスパイ工作──現場での調査実務に実績があります。
本記事の安倍川さんは、まさに私を評価してくださっていた一人です。
その私が認めます。
少ないより多い方がいいのは確かです。
しかし青木理氏の反論も、本人の意図するところと離れてではありますが、あながち外れてもいません。
インテリジェンスは個人芸
青木理氏が言う、権限がないから効果に直結しない。
正確には「直結しづらい」と言うべきですが、一般論としてはあてはまります。
よって真です。
しかし、そもそも人がいないと何も始まりません。
その意味で偽です。
でもその上で、私は青木氏の「効果に直結しない」について認めます。
それは権限がないからじゃない。
もちろん権限がある方が強いです。
しかし権限が全てではない。
権限を持つ警察庁が権限のない公安庁に出し抜かれる場面はざらにあります。
でもそれは、ごく一部のセンスある調査官によるのが実情。
公安庁は各調査官の個人商店なんです。
(というか、情報機関は区分の原則があるので基本そうなります)
みんな頑張ってるんだよ!
一定程度までは、センスを経験と努力で補えます。
しかし公安庁には実際の工作に従事する機関員を育てる制度がありません。
人員・能力・その他色々な理由がありますが……。
各局・事務所ではほとんど何も教えず調査に出しているのが実情です。
中には育てるのがうまい方もいますが、まさにセンスを努力で補わせていました。
相当なスパルタ教育ですが、本来は庁としてそういった教育システムを用意すべきところです。
ちゃんと教育なり訓練なり施してから実戦に投入すればレベルの均質化が図れます。
もちろん、その分費用対効果も上がります。
まとめ
人事課のベテランノンキャリア曰く、「公安庁は1割の職員が全てを支えている」。
一見して働きアリの理論に聞こえます。
しかし公安庁で柱となる職員は同理論に言う「2割」に届いていないんです。
それゆえ同人は「1割が2割になるだけで公安庁は一流官庁になれるのに」とも言いました。
私もそう思います。
でもその前に、効果の上がる体制作りを目指してほしいと願います
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