公安調査庁官庁訪問面接再現その2 ~会話は相手がいて初めて成り立つものです【就活】

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2017-07-17インテリジェンス・治安

本記事では公安調査庁(公安庁)で私が原課訪問を受けたときの面接を再現します。
(ただし例自体は別サイトとなります)
極めて特殊な例ですが実話、こちらに続くシリーズとなります。

なお今回は、公安調査庁のみならず全官庁で言える例だと思います。

官庁訪問再現

拙作「キノコ煮込みに秘密のスパイスを 」の主人公弥生を使ったもの。
この番外編に限り「私=弥生」です(本編は違います)。
以下、掲載サイトより全文を引用します。

キノコ煮込みに秘密のスパイスを番外編

11/06/某日 本庁オフィス:趣味、北朝鮮研究?

 朝の一一時、もう少ししたらお昼。
 休憩に入れるし頑張ろう。

 内線が鳴る。

「はい、流川です」

「弥生ちゃん、時間大丈夫? 官庁訪問の学生の面接頼みたいんだけど」

「東大法学部なら拒否権を行使させていただきます」

「大丈夫、弥生ちゃんと同じK大だよ」

 それならラッキー!
 しばらく隣に座る相性最悪なネズミ面上司を見なくて済む。

 電話を切って、段原補佐に声を掛ける。

「すみません。面接呼ばれたので行ってきます」

「いいねえ、キャリアさんは。何度も遊ぶ時間作れてさ」

 遊びじゃねえよ!
 お前こそ何度同じ嫌味を言えば気が済む!
 ……とは言えない、こんなバカでも一応は上司だ。
 頭を下げる。

「忙しい中抜けさせてもらい申し訳ございません」

 段原補佐がフンと鼻を鳴らす。

「先日みたいに慌てて帰ってくることないから、ゆっくりしておいで」

 死にやがれ!

              ※※※

 ──人事課に寄って応接室に入る。

 待っていた学生は色白な小太りさん。
 中途半端に伸ばした髪に、ほっぺたはもちもちつるつるした下ぶくれ。
 一見して大人しそうなおかめさん。
 しかし細い目の奥には攻撃性を秘めている。

 正直、あまり良い第一印象とは言えない。
 小太りは仕方ないんだけど、髪は切ってきてほしかった。

「お待たせしました。初めまして、流川弥生と申します」

「K大経済学部、古江真一です。よろしくお願いします」

 公安庁に限らずだが、官庁訪問では同じ大学出身の職員を紹介することがままある。
 職員は話題を振りやすいし、学生もリラックスして話しやすいから。
 というわけで、早速話を振ってみる。

「K大なんですか。私もそうなんですよ」

「そうですか。私、あまり学校行ってないのでK大のことはよくわからないんです」

 いきなり話が途切れてしまった。

「ゼミは?」

「入ってません」

「サークルは?」

「入ってません」

「大学入学したての頃も?」

「K大のみんなってチャラそうなので、抵抗ありまして」

 K大だと四割はゼミに入れないし、最近じゃサークル離れ進んでるからこんなものかもしれない。
 だから他に話せることがあるなら、ここで特段マイナスにするつもりはない。
 でもチャラいだけじゃなく、漫研とかのオタク向け文化系や司法研などの意識高い系団体だってあるんだけどな。
 行動に積極性がない点と自ら話題を作ろうとしない辺りで、ますます負の印象を強めてしまっている。

 仕方ない、普通に面接しよう。
 訪問票を見る……。

「趣味、北朝鮮研究?」

 目に入った瞬間、つい呟いてしまった。
 その途端、古江さんが目を爛爛と輝かせる。

「はい!」

 俺は何か地雷を踏んでしまった。
 そのことは悟った。

 古江さんが声を張り上げる。

「ぜひ、私の研究の成果を聞いて下さい」

 聞いて下さいって。
 普通は「聞いていただけますか?」あるいは「話しても構いませんか」だろう。
 会話は相手があって成り立つもの。
 まずは意向を確認することから始めないと独りよがりという印象を与えてしまう。
 もうこの時点で俺の評価は決まってしまったようなものだが……。

 ただ自己PRに繋げるのかもしれない。
 評価に反映させるのは、話を聞いてからでも遅くはない。
 どっちにしろ話したいというものを断れないし、ここは最後のチャンスと思って聞いてあげよう。

「どうぞ」

「現在の北朝鮮における戦力は……」

 いや、そんなところから話す必要ないんだが。
 というか、普通は「どんな仕事をやってるんですか?」って聞くだろう。
 勢いに押されて北朝鮮担当なのを言いそびれてしまった。

 ──一〇分後。

「北朝鮮の核開発の状況は……」

 あのさ、相手を見てから説明してくれないか?
 なんせ役所にいる間はひたすら北朝鮮、北朝鮮、北朝鮮。
 ずっと北朝鮮漬けなんだから、嫌でも詳しくなる。
 学生相手に威張っても仕方ないが古江さんが今話していることよりは遥かに知っている。
 北朝鮮分析始めて数ヶ月の俺ですら。
 というか私生活でまで北朝鮮研究するなんて、俺から見たら狂気の沙汰としか思えない。

 あるいは「知っていても楽しませる」ように話してほしい。
 その場合は話術を評価できるのだから。

 ──二〇分後。

「金正日の健康状態に不安がある現在……」

 どっかで俺が読んだ雑誌記事をそのままなぞって話してる。
 記憶力は認めてあげよう。
 でも、それを鵜呑みにしているのを晒すのはむしろマイナスだぞ。
 その記事をどういう人がどういう背景を持って書いているのか。
 表に出てない事情を知れとは言わないが、せめて独自の着眼点が欲しい。

 ──三〇分後。

「日本国内においても本国の工作員が潜伏しており……」

 普通ここまで話すなら「続けてもいいですか」くらい聞くのが筋だ。
 にっこり笑い続けてられる俺って成長したよなあ。

 ああ、そうだ。
 その話続けていられる肺活量は認めてあげよう。

 ──四〇分後。

「科協が……」

 今日のお昼は何食べようかなあ。
 有楽町まで出るの面倒だしなあ。
 地価の社員食堂でいいや。
 高い割に美味しくないけど、銀ムツの照り焼き定食だけはお薦めと思う。

 ──五〇分後。

「※※※※※※」

 ○×△□、○×△□、▼■○×△□。
 ○×△□、○×△□、▼■○×△□……。

 ──六〇分後。

「警察庁は在日を罪状でっちあげてでも全員逮捕して我が国から根絶やしにすべき、自衛隊は今すぐ先制攻撃をかけて平壌を陥落すべき。以上が私の主張となります」

 やっと終わったか。
 最後は治安官庁を回るにあたって、絶対言ってはいけない言葉で締めやがった。

「素晴らしい! 貴重なお話を聴かせていただきありがとうございました!」

 古江さんの細い目から歓喜の涙が流れる。

「私こそです! ずっと私の話を頷きながら聞き入って下さって、こんな方初めてです!」

 悪いけど何一つ覚えちゃいねえよ。

「ところで第一志望は公安調査庁、第二志望は警察庁、第三志望は防衛省ということでしたよね」

「はい」

「本当にそうなんですか? 先程も警察庁と自衛隊で話をしめくくりましたよね」

 内局と制服組を一緒にするのもどうかと思うが。

「いえ、本当です」

「公安調査庁の面接は本音ベースで大丈夫ですから。ここだけの話、私も警察庁落とされて、仕方なく公安調査庁に入ったんですよ」

 大嘘だけどな。
 俺は最初から公安調査庁しか考えてなかった。
 無理ゲー大好きなドMゲーマーゆえ、三流官庁のし上げる方が面白そうに感じたから。

「実はその通り、警察庁が第一志望です──」

 古江さんが気まずそうにおずおずと口を開く。

「──でも、流川さんみたいな素晴らしい方がいらっしゃるなら、本当に公安調査庁を第一志望にしたいです!」

「官庁訪問は人生の大勝負。職員の印象なんかで軽々しく希望を変更しちゃダメです。行きたいところ回らないと絶対に後悔しますよ」

「そうでしょうか……」

 ここぞとばかりに、にっこり笑う。

「そうですとも。私も古江さんを応援しますから!」

「ありがとうございます! 警察庁、頑張ってみます!」

「頑張って下さい!」

 古江さんが退出した。

 ──チェックシートに「×」をつけて、人事課に持っていく。

 受け取った横川さんが不満げに叱責してくる。

「弥生ちゃん、時間掛かりすぎ。三〇分で切ってくれないと」

「私に言わないでください! よくもまた、落としたい学生回してくれましたね……」

 同じ学校だからと思いきや。
 完全に裏をかかれた。

「きっとサクッと切ってくれるかなって。正直予想外だよ」

「来客の話はこちらから遮れない、これは社会のマナーと思いますが」

「あんな自分のことしか考えてない学生にマナーなんて考える必要ないよ。間違いなく、どこの官庁も内定出さないから」

「当たり前ですね」

 民族差別に北朝鮮開戦を口にする学生なんて危なくて採用できるか。
 特に後者は、そういう事態を回避するために俺達が働いてるんだから。

「でも、また来たらと思うと頭痛いなあ。あのタイプってお引き取りしてくれないから」

「警察庁に誘導しといたから大丈夫だと思いますよ」

 「あなたのため」を装って厄介払いするのは官僚の基本的な会話術。
 あんなのに乗せられる程度では、いずれにせよ霞ヶ関は無理だ。
 警察庁よ、超一流官庁の務めとして俺達の代わりに彼から恨まれてくれ。

「さすが弥生ちゃん」

「というわけで、今度こそまともな学生回して下さいね」

 ──お昼を済ませたら一三時を回ってしまっていた。

 休憩も取らず二‐三に戻る。
 すると段原補佐が例のごとく嫌味を言ってきた。

「一一時に出て行って帰ってきたのは一三時すぎ。さすが貴族暮らしなキャリアの弥生君、ゆっくり心ゆくまで休憩とれて羨ましいなあ」

 警察庁の誰かさん。
 あなたの昼休憩も潰れてしまうこと、心より祈ってます。
 やっぱり不幸はみんなでわかちあわないとね!

注釈

伏字の部分はこの歌が流れています(主人公の弥生はつるぺた以外愛せない可哀相な人です)

JASRACに喧嘩売りたくないので御容赦ください(苦笑)

解説

読んでわかるところは割愛します。

会話は相手がいて初めて成り立つ

面接だろうと会話の一種、コミュニケーションであることには変わりません。
古江さんの大演説は極端ですが、一方的に自分のことを話し続ける人はざらです。
相手の反応を見ながら話すように心掛けましょう。
もし退屈していそうだったら確認をとるか打ち切るかした方がいいです。

作中の弥生はずっと笑顔で、うんうん頷きながら聞いている振りをしています。
しかし実際には聞いていません。
相手の反応が単調な場合は危険信号だと思って下さい。

いわゆる「空気を読む」。
発達障害(ADHD)の私も実は苦手なのですが……訓練すればできるようになります。
よく相手の目を見て話せと言いますが、それだけじゃない。
眉や目の動き、口元、姿勢、息遣い。全神経を張り巡らせて相手を観察してください。

ただ、もっと即効性のある解決法があります。
それは、

伝えたいことを真っ先に言う、言い終えたら一呼吸置く。

インテリジェンスの世界では「同じ事を1分、10分、1時間で話せるようにしろ」と言われます。
情報を伝える相手の時間的都合がわからないからです。
「主題→要旨→各項目→各論」みたいな感じで予め構成しておくといいです。

言い終えたら、一呼吸置きます。
「続けて」とか「具体的には?」とか促されれば、それに従います。質問されたり、あるいは話題を変えられても同じです(例えば「長所」から「短所」)
一呼吸置くのは、相手が反応するための余裕を与えるためです。

無言の場合は主導権を渡されているので、締めるか続けるか自分で決めます。
ただし長くなる場合は「続けてよろしいでしょうか」と確認する方が無難でしょう。

会話のバランスをとる

「弥生ちゃん、時間掛かりすぎ。三〇分で切ってくれないと」

弥生が人事から怒られているように、面接時間は限られています。
学生はその限られた時間で自分を知ってもらわないといけません。
訪問票も、そのための話題を提供するために記すもの。
自らを知ってもらう機会を放棄して、自分の話したいことだけを話す。
その行為自体が愚の骨頂と言いうるもの。
いかに限られた時間で自分を知ってもらうかを考えて下さい。

ただし、各項目で満遍なくアピールする必要はありません。
例えば趣味なら趣味だけでも相手が関心持って聞いてくれたなら、それで十分です。
官庁の場合、民間と違って「何を言うか」より「どう話すか」が重要視されますので。

時間が長い=高評価とは限らない

「弥生ちゃん、時間掛かりすぎ。三〇分で切ってくれないと」

よく誤解している人が多かったので。

私の場合ですと、長くなるのは「評価に迷う」時。
あとは作中のような問題児。
気に入って長くなったのは一人しかいませんでした。
(なお、その一人は人事、私、同僚の全員が最高評価を付けました)

拙作の紹介

もし興味を抱かれましたら本編もよろしくお願いします。