先日「小説家になろう」界隈で相互評価を巡る事件が発生し、以下の法的見解を記しました。
さて、この事件をめぐり、以下の意見を見かけました。
本当にそうでしょうか?
本記事では、さらに論点を絞り込む形で説明したいと思います。
なお私は法曹ではありません。
そのことを踏まえた上で参考としてお読みください。
問題となるのは「虚偽」
本件が偽計業務妨害罪にあたらないという批判は、以下の論理によります。
従って、「疑わしきは被告人の利益に」という原則から、偽計業務妨害罪を構成しない
それを言い始めたら誹謗中傷のし放題になるというのは感覚的にわかるかと。
ただ法律論を感覚で述べるわけにはいきません。
大体こうした話は、過去に裁判所でも論点として採り上げています。
以下、判例を元に、ざっくり述べます。
「虚偽」の解釈(判例)
「虚偽の風説」の「虚偽」の解釈には主観説と客観説がありますが、判例・通説は主観説を採用しています。
刑法二三三条にいう『虚偽の風説』とは、行為者が確実な資料・根拠を有しないで述べた事実であると解し、故意の点は別論として、その資料・根拠の確実性は、被告人の主観によつて決するのではなく、社会通念に照らし客観的に判定されるべきであるとするのが相当であると考える。
(引用:東京地方裁判所昭和49年4月25日判決)
簡単に言うと、
客観説:本人が虚偽のつもりだったとしても、内容が真実だったら罪にならない
冒頭に述べた批判は客観説に立つものです。
主観説に基づく本件のあてはめ
「本人が真実と信じていたら」と言っても、ただ「信じてました」と言えば通るわけではありません。
信じるだけの理由、判例にいう「資料・根拠」が必要となります。
本件の「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」を言い換えます。
つまりは、こう信じても無理はないと思えるだけの資料や根拠があるかです。
Amazonにレビューを書かれた著者は、この点について自ら弁明しています。
しかし刑事事件となれば証明するのは著者ではありません。
書き込んだなろう作者の方です。
反証として持ち出されると予想しうるのは、昨年夏に発覚した相互評価クラスタの存在。
同クラスタに関するログは、暴露で名指しされた作者達については資料・根拠となりえるでしょう。
しかし本件の「インチキ」と直接結びつくものではありませんので。
別途、著者が参加していたとみられる相互評価クラスタの資料などが必要です。
長々語るのも無駄なので割愛しますが……状況から判断するに、まず証明できないのではないでしょうか?
なお、当然のことながら、全ては原文次第です。
あくまで「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」という要旨が正確という仮定なのは付言させていただきます。
表現方法による抜け道はありますので。
まとめ
こういう問題を考えるには、できれば自分自身で判例を調べるのが一番。
公共の図書館には判例データベースがありますので活用してみてください。
「そこまでできるか!」という場合は、弁護士その他法律関係の士業の書いたブログが参考になります。
該当の論点について、詳細に記されている場合が多いので。
手元に置いておくと便利なのが、こちら。
法律知らなくても気楽に読み流せます。
漫画として普通によくできてますし、辰巳が出しているだけあって内容も正確です。
創作のタネにもなりますし、その点でもおすすめです。
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