「小説家になろう」某書籍化作品のAmazonレビュー問題について法的観点から考察してみる

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2017-07-25小説・創作

※著者がレビューを非公開にしたこと、検索順位が上がりすぎてしまったことを考慮し、記事を匿名に書き換えました(スラッグから作品名はわかるのですが放置しておけば順位は下がるでしょう)。
 本人から申入れがあったわけではないのですが、自主的な判断でさせていただきました。

「小説家になろう」の某書籍化作品をめぐり、一騒動起こっています。
具体的にはAmazon商品ページに「相互評価によって書籍化」という☆1レビューが投下されたというもの。
著者は法的措置を辞さない構えを見せました。
某社初のなろう物(ですよね?)ということもあり同作品の動向には注目していたのですが、まさかこんなことになろうとは。

この件につき、法的観点から考察してみたいと思います。
私は法科大学院を修了しており、法律にはそれなりに通じてます。
そして私自身が「小説家になろう」で活動する作者であり、同サイトについてはそれなりに通じてます。

加えて、私は小説家になろうでの活動をめぐり某作者から嫌がらせを受け、実際に法的措置をとったことがあります。
本文の内容は、私の経験に基づくものでもあります。
(なお、現在も争っている途中ですので、具体的な記述は差し控えさせていただきます)

なろうユーザーには法律知識の少ない人も多いでしょうし、参考になると思います。
ただし、私は法曹ではありません。
あくまで個人の単なる一見解であることは強調させていただきます。
実務的観点や法解釈の誤りなどある場合は遠慮無く御指摘ください。

論の前提

私と著者の間に交流はありません。
Twitterでは相互フォローしてますが、これまでツイートのやりとりをしたことはありません。
小説家になろう内においても、先方からお気に入りユーザーに入ってますが、具体的なやりとりは一切ありません(お気に入りは推理ランキングINの頃なので、目について何となく入れた程度だと思っています)。

もう一方の当事者とも面識はありません。

事件の流れ(知っている方は飛ばしてください)

以下の「まとレーベル」を御参照ください。

法的検討の種類

まず、法的検討と言っても、刑事と民事があります。
刑事は警察や検察に被害届・告訴を出すもの、民事は裁判所に対して損害賠償請求訴訟を提起するものです。
以下、個別に検討します。

刑事的観点からの検討

考え得る罪責

名誉毀損罪(刑法230条)と偽計業務妨害罪(同233条後段)が考えられます。

コメントを眺めた印象として、法律知識のない方が真っ先に思い浮かぶのは名誉毀損でしょう。
一方で著者は、活動報告の記載から偽計業務妨害罪の方を念頭に置いていると思料されます。
文章は同罪の構成要件を意識して書かれた印象をうけますので。

以下、それぞれについて検討します。

構成要件の概念について(わかる方は飛ばしてください)

まず、構成要件という概念について説明します。

ある行為が犯罪になるかは、当該行為が刑法上の条文にあてはまるかどうかによって決します。
これを「構成要件に該当する」と言います。

構成要件には主観的構成要件(=故意)と客観的構成要件があります。
ただ故意は、名誉毀損罪や偽計業務妨害罪の場合、基本的に行為の外形から認定しえます。
以下、単に構成要件という場合は客観的構成要件を指します。

名誉毀損罪の検討

構成要件

名誉毀損罪の構成要件:①公然性、②事実摘示、③名誉の毀損
免責要件:①公共性、②公益性、③真実性

詳しく知りたい方は弁護士ドットコムの説明を御参照ください。

免責要件はマスコミ以外だと、まず該当しませんので割愛します。

構成要件該当性の検討

公然性は充たします。
事実摘示は「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」という事実を摘示しているので充たします。
問題は、名誉毀損と言いうるかです。

名誉毀損罪における「名誉を毀損する」とは「社会的評価を低下させる」ことを言います。
これは実際に低下させる必要はなく、可能性で足ります(立証不可能なので)。
単に名誉感情を害されたというだけでは、これに当たりません。

著者の場合、「小説家になろう発の商業作家」という社会的評価があります。
では「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」という事実の摘示は、かような社会的評価を低下させるものでしょうか。
これを検討するには「相互評価」という概念を知る必要があります。

 小説家になろうにおける「相互評価」の概念(知ってる方は飛ばして下さい)

小説家になろうにおける「相互評価」とは、次のことを指します。

作者が他の作者と共謀して互いの作品に評価ポイントを入れ合う行為。

相互評価を巡っては、「小説家になろう」利用規約第14条において次の禁止事項が定められています。

15.
一人又は複数のユーザが、本サイト内外を問わず、特定の作品に対する評価を依頼する文章を掲載する、又はメッセージで送信する行為。
ただし、本サイトの評価システムの信用を毀損する恐れがないと判断される行為は除く。

「小説家になろう」で人気をとるためには「日間総合ランキング(以下、日間総合)」に入る必要があります。
一旦入りさえすればポイントがポイントを呼ぶ形で、どんどん人気が上がります。
いわゆる書籍化は、この結果としてなされるものです。

日間総合に入るには24時間で70~80ポイントがライン。
詳細は割愛しますが、自力で入るのは結構な高い壁です。
しかし複数の作者が通謀して相互評価し合えば、この壁は容易に突破できます。
ブックマーク+評価で12ポイント、自分除く6~7人集まればいいので。

従前は、相互評価の問題につき、小説家になろうの機能(メッセージなど)を用いて依頼しない限りは価値観の問題とされていました。
規約で禁止されていなかった(正しくは禁止しようがない)からです。

しかし2016年夏、なろう作者達が相互評価を目的とする100人を越えるグループを組み、ランキングを操作。日間総合ランキング1位を獲得した事実が発覚しました。
それもスクリーンショットの証拠がつけられた内部告発によるものです。

小説家になろうは大炎上。
運営もユーザー達の声を無視するわけに行かず、上記の規約改正に至りました。

まとレーベルの記事にも書かれていますが、実際には抑止としての効果しかないでしょう。
ただ、この一文は重要です。

ただし、本サイトの評価システムの信用を毀損する恐れがないと判断される行為は除く。

この但書を反対解釈すると、ユーザーに対する警告と受け取れます。
「相互評価クラスタみたいな大掛かりなものについては、信用毀損罪などで警察へ突き出すことも辞さない」。
わざわざ「信用を毀損」と明言しているのは、恐らくそのためです。

「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」という事実摘示の評価

以上の経緯からすれば、規約改正以降においては、「相互評価グループに所属しインチキ=悪(=信用毀損・業務妨害犯)」という認識がユーザー間において共有されているものと言い得ます。
よって、本件事実指摘は、著者の小説家になろう発商業作家としての社会的評価を低下させる可能性が大きいと考えます。

ただし、これは原文がないことから「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」と断定して書かれていた場合を仮定してです

例えば、次のような表現で書かれていたとするなら「意見・論評」の範囲にあたるでしょう。

「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した、と思うほどにつまらない内容だった」

似ているようで違います。
相互評価グループ云々は、文章構造的に「つまらない」比喩にすぎないからです。
書き込まれた場所も「レビュー」ですから問題ありません。

偽計業務妨害罪の検討

構成要件

偽計業務妨害罪の構成要件:①虚偽の風説流布or偽計、②業務を妨害

②は現実に妨害する必要はなく、妨害する危険が生じたことで足ります。

①は、「相互評価グループに所属しインチキで書籍化した」は、問題なく虚偽の風説の流布に当たります。
②は、Amazonレビュー欄を利用して作者・作品の悪評を流すことは同著の売行きに影響を及ぼす可能性があり、著者・某社いずれを被害主体に捉えるとしても業務を妨害する危険を生じさせます。

従って偽計業務妨害罪が成立します。

もっと詳しく知りたいという方は、こちらの記事をお読みください。

なお、名誉毀損罪と同じく原文次第であることは付け加えておきます。

実際に警察に届けた場合

しかし、実際に警察に届けたとして、問題が解決するかと言えば違います。

と言うのも、被害届・告訴状の受理をめぐる実態の問題があります。
両罪を警察に届けた場合、まず被害届・告訴状は受け取ってもらえないでしょう。

警察はとにかく被害届や告訴の受理を拒みます。
刑事訴訟法で受理義務が定められているにもかかわらず。
弁護士ですら受理させるのはかなり苦労するのが現実です。

理由としては、

  • 損害賠償を得る(民事的解決を図る)手段として警察権力が使われる可能性がある。
  • 警察は忙しいので起訴・有罪判決まで持ち込めなさそうな事件はやりたくない。
  • そもそも警察(所轄)が刑法に詳しくない、そしてややこしい議論はしたくない。

などが挙げられます。

本件において、警察が受理を拒むための弁明として考えられるのは次のものがあります。

  • 証拠が無い
    実際問題として、警察が正しいです。
  • 可罰性がない
    簡単に言うと「レビュー削除してるんだから、もういいじゃん」ということです。
    法律上、可罰性という理由で受理は拒めません。
    しかし警察からすれば紛争が解決したという扱いになります。
  • 様々な理由から刑事上罰する程でも無いと判断される
    名誉毀損は仮に告訴されても起訴まで至らない代表的な罪です。
    例えば民事にはなりますが「東スポの書くことなんて誰も信じないよね」と名誉毀損が認められなかった判例も存在します。
  • (相手方を)統合失調症などの精神異常者扱いをする
    警察は「キ○ガイなんだから罪にならない」で流してしまいます。
    この場合は「精神障害か人格障害か」で争うことになります(後者は刑事上の責任能力を負う)。

もちろん受理してもらえれば万事解決ですが……。
そう簡単にはいかないのではないか、というのが個人的な見解です。

民事的観点からの検討

不法行為による損害賠償請求(民法709条)が考えられます。
しかしスクリーンショットがない以上、提訴したところで負けると思います。

他の問題点もありますが、長くなるだけですので割愛します。

今後とりうる方策

まず著者がレビュー削除でよしとするのかどうかです。
それでいいのなら、この問題は解決でしょう。

仮にそうでないのなら警察に受理されるかどうかでしょう。
画像を募集しているのは恐らくそこがネックだからです。

しかし警察に受理してもらえなくとも、別の方策があります。
それは、

検察に告訴する。

いわゆる直告と呼ばれるもので、警察の段階を飛ばします。
(受理されれば書類送検と同じになります)

検察は警察よりも法に対して厳格。
要件が整っていれば告訴状を受理してくれます。
(ただし起訴率は警察に告訴するより低くなる)

まず「可罰性」は問題となりません。
削除しても一旦既遂に至った犯罪事実は消えません。
検察は問題ないものとして告訴状を受理します。
相手が反省の態度を見せていれば話は別となりますが(情状酌量により不起訴となる可能性が高いため)、本件はそれもありませんので。

画像がなくても恐らく大丈夫です。
本来、証拠は告訴の受理要件ではありません。
著者の活動報告から、Amazonにレビューを書いたことは推認しえますので。
告訴状を受理してもらうだけの事実は記載できるはずです(某社法務部の腕次第ですが)。
あとは検察が捜査してくれます。
私の場合も外見から侵害状況を判別できないため証拠無しで告訴状を提出したところ、検察で調べてくれました。

問題は犯行の程度。
名誉毀損の方は受理されても、すぐに不起訴で終わるでしょう。
攻めるとすれば偽計業務妨害の方でということになります。
著者個人が主体ならまだしも、某社の業務を妨害したという理由で告訴するとなると、検察も軽々しくは扱えないと思います。
企業法務が動くということはそうなるでしょうし。

あと精神障害については、そう考えられたとしても受理してくれます。
(法定での鑑定によって判断するのが建前なので)
しかし起訴となると話は別です。
検察官が取り調べをして明らかに頭がおかしいと思えば、起訴しない可能性があります。

損害賠償を請求したいならその後。
検察の捜査資料を元にすれば、提訴するだけの証拠は揃うでしょう。

補足 著者の強要罪成立の可能性

この手の話になると「法的手段をちらつかせてレビューを削除させたことは強要罪を構成する」と言い出す人がいるので。
著者は現実に法的手段の行使に向け、相談などを行っています。
机上では考えられても、実務で受け入れられる可能性はまずないと思います。

まとめ

今回に限った話じゃありませんが「法律を持ち出すのは大人げない」という声をよく聞きます。
もしかしたら著者の言動を、書籍化作者であることを盾にとった恫喝とみる人もいるかもしれません。

しかしそうでしょうか?

法律は守らなければならないもの。
違反する方が悪いんじゃないでしょうか?
少なくとも「ごめんなさい」すら言わない人に、そんな反論する権利はないんじゃないでしょうか。
もちろん謝罪の義務はありませんが、人として最初に出てくるべき言葉だと思います。

私が本記事を書いたのは、自分自身における相手方の態度と被ってしまうからです。
多くは記しませんが、刑事さんはログを見て「あなたが怒るのは当たり前です」と言ってくれたこと、最後は「そこまで言うなら警察は受けて立つ」とまで言ったことは付言しておきます。

著者が今後どのような方策を採るかはわかりませんが、本人にとって良き方向に向かうことを祈ります。
もし法的手段を採るのであれば、私は応援します。
正直なところ、もしやったのなら謝れば済んだ程度の話。
なのに……以下略ですが、それを見たときの気持ちは自分のことのようにわかります。
そして私自身のためでもあります。
この件が抑止効果となるなら、私もまた自らの争いから手を引けますので。

法律は社会全体に共通するルール。
特に刑法は小説家になろうの規約に優先して絶対に守らないといけないものです。
「小説家になろう」で活動する作者は法に対するリテラシーを持った方がいい。
自戒の意を込めつつ、そう思います。