4番目(現在 ~最終改稿から2年半近く経過しての書換え)
「なあなあ、そこのカノジョ♪」
隣に立つおにいさんが誰かをナンパしている。
とさかみたいなリーゼントに甚兵衛服。
一体何十年前のファッションなのだろう?
冷房が効いているはずなのに暑苦しく感じる。
というか辺りには俺しかいない。
つまりヤンキーさんは一人で話している。
いわゆるエアナンパ?
やだ、怖い。
格好も怖いなら、頭も怖い。
関わり合いになりたくない人は無視をしてと。
もう一度メールを確認しよう。
携帯を開く。
【From:天満川観音 To:天満川小町
Sub:待ち合わせの時間と場所
19:30に新大阪駅新幹線改札まで迎えに行くけえ、それに合わせて来んさいね】
姉貴と会うのも久しぶりだな。
中学最後の夏休み。
こうして大阪旅行できるのも、姉貴が新幹線のチケットを送ってくれたおかげだ。
しかし何度見ても時計は一七時四五分。
早く着きすぎたなあ。
せっかくだし、駅周辺を観光したいんだけど……。
「返事してえな、べっぴんさん♪」
新大阪駅って、大きくてわかりづらいなあ。
上には看板があるけど、出口がいっぱいありすぎる。
地元の広島駅みたく、南口と新幹線口だけならわかりやすいのに。
とりあえず【正面口】と書いてる矢印の方向に向かってみようか。
正面って書いてるからにはきっとそこがいわゆる正門なんだろう。
「待ちいな」
──うわっ! ヤンキーさんに肩を掴まれた!
「なんですか!」
「道に迷ってるみたいやん、俺が案内したろか?」
「結構です」
ヤンキーさんの手を払う。
早く逃げよう。目を合わせない様に……。
今度は前に立ち塞がってきた。
「ええやんか、ちょっとそこらでお茶でもせえへん?」
しつこいよ。
「おにいさん」
「ああ、ええなあ」
「はい?」
「そのハスキーなボーイズソプラノ。そんな声で『おにいさん』とか呼ばれると、弟の様な妹の様な。一度で二度美味しいやんか」
こいつは変態か。
「おっさん」
「おっさんちゃうわ」
「僕も『カノジョ』とも『べっぴんさん』とも違います。立派な『男』です」
そう、俺の性別はオトコ。
「またまたあ、そないなん言われて誰が信じるん」
そして、このヤンキーさんの言うとおり。
俺はオンナ顔なんてかわいいものじゃない。
ホントに外見女の子。
いわゆる「男の娘」などというふざけた呼称のまさにそれ。
誰をナンパしてるかだって、もちろん気づいてた。
でも、そんな現実認めたくないから無視してたのに!
おにいさんに始まった話じゃない。
親友と思ってたヤツから「付き合って」と告白された時の気分はもうね!
しかも肝心の女の子からは全くモテないっていうね!
だいたい、この「小町」って名前はどうにかならないの?
母さん曰く、「あんた生まれた時ぶち可愛うてから女の子じゃあ思うたけん」。
それならまだしかたないって思った。
だけど姉貴が本当の理由を教えてくれた。
「広島市の地図にダーツを投げて当たった町名で名付けただけ。私の名前も同じ」
うちの親は死ねばいいんだ。
みんな「綺麗」とか「麗しい」とか言うけど、そんなの男への褒め言葉じゃないよ。
誰か一人くらい「格好いい」って言ってくれてもいいじゃないか。
おにいさんが顔を近づけてきた。
タバコとシンナーが混じった口臭。
吐き気がしそう。
「胸ぺったんこやねんけどノーブラやん。それって俺の事誘ってるんちゃうん?」
キレた。
眉間にしわを寄せながら斜にかまえる。
いわゆるヤンキーのポーズ。
「のう」
ヤンキーさんがびくっとした。
一気に畳みかけてやる。
「黙っとりゃあカバチばかりたれやがって。なめとるとぶちしばくぞ?」
「あ……え……と……」
んじゃさようなら。
広島弁って実にハッタリが効く。
ああ、なんて素晴らしい。
「……いい!」
「え?」
背後から思わぬ言葉が聞こえてきた。
「その顔その声でそのギャップのある台詞、めっちゃゾクゾクするやん。近くのラブホでもっともっと、もっと俺の事を叱ってえな!」
やば……。
まさか、この人……。
ホントのホントに危ない人?
振り向き、ヤンキーさんの脛を思い切り蹴り飛ばす。
「いたっ! 何すんねん!」
ヤンキーさんの動きが止まる。
今だ!
床を蹴り上げ一気にダッシュ!
「待ってえな、俺と愛し合おう、なっ?」
そんな恥ずかしい台詞を叫びながら追いかけてくるのはやめて!
とにかく逃げないと!
どこを走ってるかわからなくなってるけど、とにかく撒かないと!
姉貴助けて! 大阪って怖すぎます!
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