皆さまの理想の上司って、どんな人でしょう?
公安庁の場合ですと、
というのが、よく出てきました。
信じられる人
公安庁では、部下の仕事を奪うor潰す。
そういう上司が珍しくないんです。
組織ならどこでもある?
間違いなくそんな次元じゃありません。
拙作「キノコ煮込みに秘密のスパイスを 」より
「部屋の同僚達がよってたかって足を引っ張りに来たんだ。例えば、君達に話した予対は二人目。一人目も有望なマルタイだったけど、直属の上司に潰された」
「穏やかじゃない話ですね。具体的には?」
「私のマルコウ記録をマルセの大阪府本部にファックスしたんだよ。マルタイから『どういう事だ』とそのファックスを突きつけられた時は、もう固まるしかなかったなあ」
予算も権限もないのに有能なスパイを獲得しろなんてのがそもそも無茶振り。
だったら部下だろうと同僚だろうと他人の足を引っ張る方が簡単ですから。
他のパターンですと、警察にタレ込んで協力者を奪わせるなんてのも。
そのせいで関東局では縦の決裁ラインが消滅しています。
有力な協力者を捕まえた場合は課長以上に直接決裁を上げたりしてます。
また、部下から聞いたプライベート事情を平気でみんなにばらまきます。
もっとも入って数年経てば公安庁のそういう下世話な体質を知るので、黙るか嘘つくことを覚えます。
仕事を教えてくれる人
これは仕事を教えることのできる上司が少ないから。
仕事ができない上司はもちろん、できる上司でも自分の仕事で手一杯。
ただしごく稀に、教えるのが天才的な方もいます。
最初にどんな上司につけるかで、職員としての将来が左右されるといっても過言じゃないです。
責任回避しない人
公安庁では何かコトが起きると部下になすりつける上司が多い……というか、それが当たり前です。
ここでの責任回避とは、マルコウの失敗など仕事上の問題はもちろん、エトセトラ、エトセトラ。
そもそも役人の仕事は責任のなすりつけあいにあります。
そんなの、報道見てるだけでもわかるでしょう。
具体的な理想像を描いてみました
「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」の天満川観音は、恐らく公安庁職員みんなが理想とする上司像だと思います。
だって、同僚達と「どうしてうちの上司達は」とグチってた逆の姿ですから。
つまり、ろくでもない上司の反面教師が観音です。
あくまで理想像ですから、その意味で明確なモデルはいません。
ただ部分部分ですが参考にした方々はいます。
ここからは内輪ネタで悪いのですが……
Mさん(元関東局調査第二部長)
一人はMさん、私の近畿局時代の専門官です。
最終ポストは関東局の総務部長か二部長か(どちらか忘れました)。
菅沼元調査第二部長の懐刀と呼ばれた方。
朝鮮総聯中央本部に「こいつに気をつけろ!」と指名手配犯がごとくの写真を貼られていた方でもあります。
外見的には体が大きくコワモテで、仕事の鬼。
しかし中身はとても優しくて、情と義に厚くて、面倒見のいい方でした。
失敗したらフォローしてくれますし、かなり細かく気遣ってもくれる。
Mさん来てから、部屋全体として、かなり働きやすくなりました。
(他の方は忙しくなったとぶーぶー言ってましたが)
このMさんの言辞を、ところどころでキノスパ内に採用してます。
以下はキノスパからの引用。
「ちょっと話がそれちゃったけど、弥生の本命は青商会? 私達と年齢も近いから話はしやすいし、いいと思うけどな」
「いや、組織本体。県本の役付で考えてる」
県本はマルセ県本部の略称。
シノがあんぐりと口を開く、今度は目も見開いた。「それはきついでしょ。支部委員長クラスならまだともかく」
「誰が相手でもきつい思いするのは変わらない。同じ苦労するなら大物を狙う」
先日の焼肉工作で身に染みてわかったからな。
弥生が自分で気づいた感じになってますが、実際にそう導いたのが観音であるのは、読んだ方だとわかるでしょう。
同じ苦労するなら大物狙う方が合理的でしょう
私が府本部幹部のマルタイをあてがわれたとき「どうして私みたいな若造が、こんな大物やらないといけないんですか!」とグチって、Mさんにたしなめられた言葉です。
続いて言われた言葉。
余裕のある大物だったら遊んでくれるかもしれないからね
以下は姉妹作「こんな弟クンは欲しくありませんか? 」からの引用。
「天満川です、首席お願いします……お疲れ様です……ええ、失尾しました……やはり府本の委員長ですね、防衛意識がかなり高いです。何回かこちらを振り返った後、あちこちと店に入られて捲かれました……」
会話がまるでわからない。
察する限りではやっぱりさっきのおっさんを追ってたのか。
でも、振り返っても店に逃げ込んでもないぞ?「……私みたいな若僧相手なら少しは遊んでくれると思ったんですけどね。残念です……詳しくは明日報告します……はい、あがります、失礼します」
電話を切る
「もしかして俺……なんかやっちゃった?」
びくびくしながら姉貴を見上げる。
姉貴は周囲を見渡してから返事する。「私が今やってたのは敵対組織の大阪府本部トップの尾行だ」
まさに観音はマルセ府本部委員長を狙いに行ってます。
もうバレることが前提な、これみよがしの尾行。
これも遊んでもらうことが前提だからです。
逆に若手を狙う方が要注意。
功名心ゆえ、ヘマを打てばここぞとばかりに騒ぎ立ててくる危険があります。
また、以下を叩き込んでくださったのもMさん。
「あとは勉強も大事。新聞等の公然情報や本庁資料には可能な限り目を通す。その上で考えた質問を相手にぶつけて初めて高度な非公然情報が取れる──」
観音が息を継いで続けていく。
「──そしてそれはマルタイになめられないためにも重要。担当官の質問は値踏み材料の一つになるからさ」
マルセなら歴史や由来もこれに入ります。
Mさんはともう一人の若手に毎日時間をとって、大阪の在日朝鮮人コミュニティの歴史・由来について講義をしてくださいました。
分野が違ってもマルコウのやり方自体は同じ。
最終的に私が認められた分野は国際テロですが……まずは勉強。
Mさんに施してもらった教育は後になって活きました。
Sさん(現在は本庁の某課長級ポスト)
もう一人はSさん。
キャリアで初めて協力者登録をやった方です。
「でも接点も条件もなければマルコウできないじゃないですか」
シノが噛みつく。
しかしその気持ちもわかる。
現場職員の目には、机上で好き勝手言っている様にしか映らないから。「ないなら作ればいいじゃないか。私は作ったぞ」
観音がしれっと答える。
シノは気を取り直したか、穏やかに問う。「具体的にお聞かせ願えますか」
「マルタイの運転する車めがけて飛び込んだ」
……これ、実話です。
具体的には自転車で滑りこむ形で車に飛び込みました。
Sさんは左腕骨折しながらも接点を作り、登録までもっていきました。
その後も現場に出向する度に登録、あるいは部下に登録させる。
まさに「マルコウのできるキャリア」と言える方です。
なんせ口癖が「飯よりマルコウが好き」。
現在はもう幹部と呼べるまで出世しちゃってますから、二度とマルコウすることはないでしょうけど。
私は同じキャリアでありながら、なぜかSさんとは面識ありません。
友人は引き合わせたがっていたのですが不思議と縁が無かったというか。
在職してる内に一度くらい協力者獲得論を交わしてみたかったものです。
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