朝鮮大学校物語(ISBN: 4044000921)は映画監督のヤン ヨンヒ(梁 英姫)氏が書いた小説です。
タイトル通り、朝鮮大学校を舞台とする珍しい作品です。
著者について
著者は韓国籍の映画監督
北朝鮮を扱う関係上、誤った印象を与えかねないので先に記します。
著者は現在韓国に帰化しています。
以下はAmazonの著者紹介の引用。
ヤン/ヨンヒ
1964年、大阪生まれ。映画監督。コリアン二世。米国ニューヨーク・ニュースクール大学大学院修了。朝鮮大学校文学部卒業後、大阪朝鮮高級学校の国語教師を経て、劇団員、ラジオパーソナリティ、ビデオジャーナリストとして活動。監督作品として、ドキュメンタリー映画に「ディア・ピョンヤン」(2005年、サンダンス映画祭審査員特別賞ほか)、「愛しきソナ」(2009年)、劇映画に「かぞくのくに」(2012年、ベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞ほか)がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
本業は映画監督であり、本作は初の小説となります。
著者の本作に関するバックボーン
前項の通り、著者は現在韓国籍。
ただし以前は朝鮮籍。
朝大を卒業し、朝高にて教鞭をとっています。
以下は、Wikipediaからの引用です。
1964年11月11日、大阪府大阪市生野区に生まれた[3]在日朝鮮人2世[3]で、幼いときから民族教育を受けて育った。 両親は在日本朝鮮人総連合会の幹部を務めていて、父親は北朝鮮から勲章をもらえるほど熱烈な活動家だった[4]。在日本朝鮮人総連合会の幹部だった両親のもと朝鮮学校で民族教育を受け、1971年から1972年にかけて、両親が3人の兄を帰還事業で北朝鮮に送った。兄らはそこで家族を持ったが、親からの仕送りで生きてきた。一番下の兄は梁が帰国事業も総連も在日も何もわからない頃に1度監視人付きで日本に帰ってきて、突然北朝鮮に帰ることになって怒ったことがある[5]。
(略)
東京の朝鮮大学校を卒業[6]。1987年から1990年まで、大阪朝鮮高級学校にて国語教師を務める[7]。
(引用元:Wikipedia 梁英姫)
作品紹介
朝鮮大学校での生活、恋愛、北朝鮮渡航記。
この3つを軸として織りなされる物語です。
Amazonの内容紹介をそのまま引用します。
「ここは日本ではありません」──全寮制、日本語禁止、無断外出厳禁。大阪下町育ちのミヨンが飛びこんだ「大学」、朝鮮大学校は、高い塀の中だった。東京に実在するもうひとつの〈北朝鮮〉を舞台に描かれる、恋と挫折、そして本当の自由をめぐる物語。映画「かぞくのくに」「ディア・ピョンヤン」の監督が自身の体験をもとに書き下ろす、初の小説。
書評
まず文章面はさらりとこなれていて非常に読みやすいです。
その上で本作には3つの魅力があると思います。
ある種の「異世界」を知る魅力
本作の舞台は「朝鮮大学校」(通称「朝大」)です。
本記事を読んでいる時点で「朝大って何?」という方はいないと思われますが。
念のため、簡単な説明を以下に記します。
朝鮮学校は朝鮮総聯系(=北朝鮮系)の民族学校。
世間では色々な噂が流れていますが、その実態は謎のヴェールに包まれています。
本作で描かれる朝大の姿は、日本の学校とは掛け離れた異世界そのものです。
後半に描かれる訪朝(北朝鮮渡航)の克明な描写が、さらに異世界感をアップさせます。
北朝鮮に興味ある方はもちろんですが、ない方にも面白く読めるはず。
あくまで「小説」であるにせよ、ですが。
知らない世界を覗き見たいという好奇心を十分に満たしてくれる一作に仕上がっています。
ノスタルジックな魅力
俗な言い方をすれば「おっさんホイホイ」。
本作の時代設定は1980年代。
そこかしこに現代とは異なる風景が描かれています。
当時を知る方には懐かしく思えるでしょうし、知らない方には新鮮に感じられるでしょう。
人間模様を楽しませてくれる魅力
「どんな組織であっても中にいるのは人」という普遍の真理を教えてくれる作品です。
さすが映画監督というべきか。
個々の人物とその交わりが実に達者に描かれています。
特に主人公ミヨンの心理は当事者ならではリアリティがあります。
こういう場面で、こういう風に思うんだ。
ちょっとした意外性に気づけたとき、一層面白く感じられます。
まとめ
本作は全体にフラットな目線が貫かれた作り。
それゆえ特殊な題材にもかかわらず、万人向けのエンターテイメント小説に仕上がっています。
特に知的好奇心については間違いなく満たしてくれるはず。
ミヨンを中心に織りなされる人間模様を是非とも美味しく召し上がってください。
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