老舗ゲームメーカー「姫屋ソフト」が2017年2月8日、倒産しました。
こちらの画像は同社のゲーム「EVE burst error」(以下EVE)、屈指の名場面。
主人公天城小次郎(探偵)とヒロインの一人氷室恭子(教育監視機構エージェント、現実に当てはめると公安調査庁のダミー機関ということになりそう)が公安本部のデータベースをハッキングするシーンです。
こちらはもう一方の主人公法条まりな。
(再生ボタンを押すとハッキングシーンが再生されます)
内閣情報調査室職員という設定。
全く別々の場所にいる二人が連絡もなしに協力しながらデータベースをハッキングしていく。
まさに圧巻、ハラハラしながら食い入るようにプレイしました。
本記事では、姫屋ソフトの倒産を忍ぶとともに、このシーンを巡る架空と現実のギャップについて語りたいと思います。
「リアルと(創作における)リアリティ」を考える上でのヒントになるかもしれません。
※アイキャッチ・記事中の画像につき、©C’s ware
姫屋ソフト倒産!?
ニュースが流れたのは2月20日。
見たときはびっくりしました、大好きなメーカーの一つだっただけに。
同社は「C’s ware」のブランドで数々の傑作を世に送り出したゲームメーカー。
往年のエロゲーファンで「菅野ひろゆき(剣乃ゆきひろ)」の名前を知らない人はいないでしょう。
同人がかつて所属していた会社です。
菅野氏は私が目標とするクリエイター。
特にEVEについては公私含めての思い入れがありました。
なおEVEは現在、el.diaでリメイクされて発売されています。
EVE burst errorと公安調査庁
というのも、EVEには、かつて私が勤めていた公安調査庁(以下、公安庁)が出てきます。
実は冒頭のハッキングされる公安本部のデータベース、公安庁の設定になってまして(PSIA=Public Security Intelligence Agency、ただし当時のIはInvestigation)。
当時、冒頭の2つの画像とあわせて「エロゲーで当庁が登場した例」として庁内報でばらまきました。
「お役所の庁内報でエロゲー?」と思われるかもですが、公安庁はこの辺りの感覚がかなり柔軟。
頭固いと、スパイ工作も分析もできませんので。
(なおエロゲーとありますが、PC98版以外は18歳以上推奨です)
公安庁は萌えパンフで話題になったこともあります。
しかし元々、役所とは思えないほど頭柔らかいということです(ただし腰掛けの検事は除く)。
公安調査庁のデータベースの架空と現実の落差
当時は世の中に「オウム真理教と破壊活動防止法」以外の点で全く知られていなかった公安調査庁。
恐らくたまたまとは言え、ゲームに出てきたのは嬉しかったものです。
しかし一方で……悲しくなりました。
というのも、当時の公安庁データベースは、EVEに出てきたものより遥かにお粗末だったからです。
どのくらいお粗末か?
もうね。
仮にハッキングされたって、だからどうした? そのレベルです。
ただし庁内LANのみで繋がっておりWANとは独立していた(=外部からアクセスできない)ので、少なくとも当時はハッキングできないとされてました。
EVEの一画面ですが、こんな風に国外のテロリストの情報が出てくるなんてことはありません。
内容も「○月○日 金剛山歌劇団公演パンフレットに広告を出す」の一行があるだけとか。
とても使い物になる代物ではありませんでした。
仮にも治安機関のデータベースがそんなわけないだろう?
ええ、もちろん。
データはありますとも、創設以来数十年にわたり積み上げられたデータが。
それこそEVEに出てきたデータベース以上に詳細な個人情報が記されています。
電子データベースは空っぽ同然でした。
その理由を以下に記します。
1 ユーザーインターフェースがぼろぼろだった
公安庁のデーターベースはEVEのようなコマンドライン型ではなく、Windowsを用いたGUIでした。
当時は情報管理室というシステム系専門の部屋があったのですが(今はない)、なんとかデータベースの電子化を図ろうとしていました。
システム部門にいれば当然の発想でしょう。
その過程でOCRによるテキスト化が図れないか試みたことがあって、それ以来OCRの意味を知らない職員達は「データベース=OCR」と認識してしまったわけです。
GUIのデータベースは「これで手作業でもなんとかなるはず!」と情報管理室が頑張った賜物。
それこそ鳴り物入りで導入されました。
しかしこのOCR、やたら項目わけされており、入力しづらい。
しかも検索も、ちょっと打ち方間違えると出てこない。
方々から不満の声が上がる状況で、使ってる人なんてほとんどいませんでした。
これ、某企業に数億円掛けて発注したもの。
聞いた瞬間、私叫びました。
私がAccessで作った方がまだマシだわ!
本気でそう思いました。
実際に本庁も現場もOCRを使わず、自分達でデータベース作って使ってました。
情報管理室の人達が導入にどれだけ苦労したか聞いているから悪く言いたくはなかったんですが、それでも言わずにはいられない代物でした。
2 情報漏洩の問題
例えば前掲した画像みたいな海外のテロリスト。
しかし、その入手ルートは独自ではなくCIAなど海外情報機関からの情報が大半。
間違っても外に漏れるわけにいかないので、担当者にしか情報が回されませんでした。
また本庁と現場は、互いに互いを信用していません。
何か情報が漏れる度、本庁は現場を疑いますし、現場は本庁を疑います。
(実情はどっちもどっち)
データがあるのは主に現場ですが「データ入れたら本庁に漏らされる」、そう考えてあえて入れないことも当たり前にありました。
そもそも本庁はともかく、現場にとってデータベースを他局と共有する意味はまるでないので。
3 入力する人がいない
これが最大の原因です。
他官庁ならバイトを雇って入力しますが、公安調査庁では情報の性質上そうもいきません。
内部の職員が入力することになります。
大体は新人の役目でした。
しかし紙のデータカードの量は、それこそ膨大。
各課に1人か2人の新人で処理しきれるわけがありません。
それも入力最悪なユーザーインターフェースで。
しかも入力するスピード以上にデータが積み上がっていきます。
業を煮やした本庁は「○○人分の入力をしろ」とノルマを課してきます。
しかしデータ入力だけが仕事じゃないのに、そんなものこなせるわけがない。
そこで仕方なく、名前と生年月日と活動記録一行だけ入力して終わり。
幹部だろうと下っ端だろうと同じ扱い。
それで
と本庁に報告します。
言われたことはやったんだから文句ないだろうと。
しかし一行だけでも入力している内はよかった。
数年後、データ入力は現場において完全に放棄されていました……。
私は当時としては珍しくパソコンに強かったのがあって、情報管理室に出入りすることが頻繁にありました。
何とかならないものかと、こんな提案したことがあります。
まあ仕方ないですよね。
紙のデータカードの記入欄は小さい、つまり書かれる文字も小さい。
しかも人間の目で読んでも判読しづらい字が多い。
現在の発達したOCR技術でも、読み取るのはまず不可能だと思います。
もし現在私が案を出すとすれば。
ページスキャナで読み込み、人物と生年月日だけ検索キーとして手作業で入力
スキャナの速度は当時と現在で圧倒的に異なります。
この方法なら人数要りませんから。
さすがに今は違うと思いますけどね
色々書きましたが、あくまでも私が在職当時の話。
過去のことになっていると思うので記しました。
さすがに何らかの手法で解決してるでしょう。
今はきっとEVEをプレイしても恥ずかしくならないデータベースなはず。
もう見る機会は二度とありませんが、どんなものになってるのかなあ。
最後に 姫屋ソフトさま、ありがとう!
姫屋ソフトさま。
「禁断の血族」から「THE LOST ONE Last chapter of EVE」まで全てのゲーム楽しませていただきました。
(以降はエロゲーそのものをほぼ引退)
「EVE burst error」は98版もサターン版もPC版もやりました。
「XENON -夢幻の肢体-」がなかなか手に入らず、秋葉原中のエロゲーショップを巡ったこともありました。
あの没頭した時間は今だ忘れられない想い出です。
ありがとうございました!
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