2021年5月17日、テレビ朝日による東京五輪開催についての世論調査がTwitterのトレンドに上がりました。
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東京五輪開催に反対する人が多いのは間違いありません。
私もその一人です。
電通もスポンサー企業も潰れてしまえと思っています。
どうして自分達が我慢強いられているのに、こいつらは美味しい思いをするのか。
きっと私と同じ理不尽感じている人は他にもいるはずです。
しかし、東京五輪開催に反対であることとと数字を正しく読むことは別です。
この見出しは果たして適切なのでしょうか?
私はそう思いません。
以下、上記を含む各社の五輪世論調査報道における数字を読み解いてみたいと思います。
ざっくり言うと、
という話です。
なお、アンケート調査にまつわる論点は他にも考えられますが、本稿では取り扱わないことにします。
数字をどのように読み取るか、この点に集中します。
前提:「中止」と「延期」を単純に合算してはならない
まず、全てのニュースに当てはまる前提を記します。
理由を記します。
「開催中止」と「開催賛成」。
この2つははっきり意思表示されているのだから問題ありません。
しかし「延期」は異なります。
今夏に限れば、五輪中止であることはいえます。
図にすると、こんな感じです。
あくまで例えですが「今夏は中止」で一致しているのは伝わるものかと。
しかし五輪そのものについては「中止」か「賛成」かわかりません。
実は賛成である可能性について、例えば次のように言い換えてみるとわかります。
つまり、開催すること自体は「賛成」の可能性もあります。
(後述しますが「賛成」を明言するものでもない点に注意)
コロナで今年は無理かもしれないけど、来年以降に状況が好転するなら開催してほしい。
理由としては、賛成派と同じ。
- 頑張ってきた選手がかわいそうだ。
- できればオリンピックを楽しみたい。
- 中止で会社が被害被るとリストラ始めて減俸や失職しかねない。
などなど考えられます。
こう思う人がいても不思議ではなく、また矛盾もしないのはおわかりでしょう。
この場合、中止と合算するのは不自然です。
図にするとこんな感じです。
あくまで例えですが「来年の開催」は意見が食い違っているのが伝わるものかと。
一方で「延期」を示した側には態度保留あるいは反対寄りの立場の人だっているでしょう。
例えば、
- 本音は中止してほしいけど、現実味欠けるから延期。
- 今年は中止してほしいけど、来年以降は来年でまた考える。
「延期」の回答項目は、いわゆる「どちらでもない」に近い物があります。
その上で賛成寄り・態度保留・反対寄りの割合はわかりません。
言ってみれば、延期の中身はブラックボックスです。
わからないものはわからないから、わからないままにするのが本道です。
判断する材料がない以上、読み手は勝手な主観を加えてはいけません。
調査結果からは読み取れる限りのことしか読み取ってはいけません。
具体的には、
「延期」が「今夏の開催中止」であることは間違いありませんから真です。
しかし来年以降については賛成あるいは不明ですから偽です。
中止は中止でもどのような中止であるのか、条件を付して判断しなくてはなりません。
もし見出し・記事ともに触れられていなければ次の通り評価されてもやむをえないでしょう。
本項で記したことを読み手視点からまとめると、
この点を踏まえて、以降をお読みください。
ANN世論調査(2021年5月17日)
調査結果
本件調査は以下の通りです。
中止した方が良いは49%にとどまります。
見出しおよびサイトの文章
見出しは、
あわせて、サイトでは次の通り記されています。
東京オリンピック・パラリンピックについて、「7月開催で良い」と答えた人は15%にとどまり、「さらに延期した方が良い」「中止した方が良い」と答えた人が合わせて82%に上りました。
どうして「延期」「中止」合算の数字で記しているのでしょう。
確かに動画内には示されていますが、見ない人は知り得ません。
「延期・反対」の内訳を記事内に書いてないことには送り手の悪意すら感じます。
つまり、偽です。
本件世論調査から読み取れるのは、あくまでも以下の事項です。
東京五輪そのもの中止を望んでいる人は49%かもしれないし82%かもしれない。
この点はブラックボックスということです。
朝日新聞世論調査(2021年5月17日)
記事リンクはこちらです。
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同記事に記された調査結果は以下の通り。
- 「今年の夏に開催する」14%
- 「再び延期する」40%
- 「中止する」43%
見出しは、
結果そのまま。
受け手はそのまま読めばいいだけです。
私としては、今回採り上げた中で最もフェアな見出しに思います。
共同通信世論調査(2021年5月16日)
調査結果
記事リンクはこちらです。
同記事より調査結果を引用します。
見出しは、
サブタイトルなので字の大きさを変えています。
本件調査は、そもそも「延期」の選択肢がありません。
中止の割合をそのまま書いていますし、そのまま読めばいいだけです。
選択肢に問題
ただし見出しや記し方と別の問題が生じます。
延期の非現実性については、IOCの武藤敏郎事務総長が述べています。
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おっしゃっている内容には説得力がありますし、私も同意します。
ただ、あくまでも「個人的なコメント」であり、公式発表ではありません。
(何の考えもなく私見を出すわけないので公式に準じて受け取ることはできますが)
まだ公式に延期を放棄したわけじゃない以上は選択肢として残すのが妥当だったのではないかと考えます。
今夏開催は反対だけれども、来年以降の開催は賛成。
この方々の行き場がなくなってしまいます。
ただし五輪そのものの開催賛成・反対について、より鮮明になるメリットはあります。
状況からみて「延期」の選択肢を置かないことが不合理とまでは断じ得ません。
本件調査にもまた意義があり、肯定していいものと考えます。
AFP通信(2021年5月17日)
AFP通信はフランス通信社。
AP通信・ロイターとあわせた三大通信社に数えられており、時事通信社と特約契約を結んでいます。
自社調査ではなく、先の朝日新聞と共同通信の調査を採り上げたものです。
記事リンク。
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見出し。
朝日の中止43%と再延期40%を合算した数字です。
先に記した通り「今夏の」と限定を付しています。
事実としては真です。
ただ、ここは個人的にですが。
朝日が結果をそのまま記しているのを、わざわざ合算して言い換えている。
記事内ではちゃんと内訳を記していますが、送り手のバイアスをかけようとする意思は感じてしまいます。
読売新聞世論調査(2021年5月10日)
調査結果
記事リンク。
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調査結果。
同記事よりグラフを引用します。
共同通信と同じ選択肢。
選択肢の問題については先述した通りです。
見出し。
ここは共同通信と異なるところ。
「無観客開催」も「観客を制限しての開催」もひとまずは開催賛成で一致しています。
その観点からすると合算しても問題ありません。
図にするとこんな感じ。
あくまで例えですが「開催」について意見が一致しているのは伝わるものかと。
同じ数字でも評価軸を変えることで解釈を変えられる
ただ賛成であっても質は異なります。
政府は観客を入れての開催を望んでいるのが各所の報道から窺えます。
そうすると実は次の解釈もいえそうです。
これは真でしょうか?
理屈としては「今夏の五輪開催」と同じ。
無観客開催派もブラックボックスなんです。
以下、2つの図を御覧ください。
女の子の台詞を少し変えてみます。
どちらでも「無観客開催」の立場に矛盾がないことはわかるでしょう。
無観客開催がベストじゃあるけど、精査してみると単純に開催賛成・反対のどちらかとまでは言えません。
さきほど「ひとまず開催で一致」と限定を付したのはこのためです。
つまり、
となります。
テレビ朝日と同様にまとめると、次の通りです。
毎日新聞世論調査(2021年5月22日)
記事リンク。
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調査結果。
記事からグラフを引用します。
見出し。
テレビ朝日の項目で述べた通りです。
さすがにテレビ朝日ほどの悪意は感じませんが。
最後に 五輪そのものの開催・中止の割合は?
最後にこの答えを出さないとモヤっとする人もいるかもしれません。
以下、私見ですが参考までに。
開催・中止の構造が鮮明となる共同通信・読売新聞の調査結果そのまま。
中止派が約6割と解していいと思います。
「延期」を選択肢に入れたメディアの「中止」が40~49%。
延期派の一部が中止に流れることを考えれば6割は範囲内の数字です。
幅を持たせて5.5~6割。
誤差は標本の差ということでいいのではないでしょうか。
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