「父・金正日と私 金正男独占告白」 ~金正男暗殺をめぐる五味記者炎上について考えたこと

きのここらむ
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本記事は金正男暗殺と「父・金正日と私 金正男独占告白」(文藝春秋社)の炎上騒ぎにつき、同著を読んで考えたことです。
書評やレビューではなく「考えたこと」です。
また、私には元公安調査庁職員という経歴はありますが、その観点からの見解は期待しないでお読みください。

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金正男暗殺を「父・金正日と私 金正男独占告白」が招いた?

五味洋治東京新聞編集委員が叩きに叩かれまくれ大炎上しています。
これは、金正男暗殺の原因が「父・金正日と私 金正男独占告白」の出版にあるとされたため。

「父・金正日と私 金正男独占告白」は著者と金正男のメールのやり取りを中心に記されたもの。

炎上については、叩いている方達と同調する形で週刊ポストが報道しています。

金正男「日本への無防備な親愛」が自らの首を絞めた側面も
金正男はなぜ今になって暗殺されたのか。北朝鮮事情に詳しいジャーナリスト・李策氏は、東京新聞・五味洋治記者によるインタビュー記録『父・金正日と私 金正男独占告白』(文藝春秋)の出…

後半部は恐らく、こんな感じで読めるでしょう。

五味記者は、金正男が反対したにもかかわらず、三代世襲批判など金正恩の逆鱗に触れる内容の本の出版を強行し、その結果として暗殺された。
それを裏付ける国情院のレポートも出ている。

実際に「こんな本出せば危険に決まってるじゃないか!」とか「オフレコの内容を報道するなんて!」という批判が飛び交ってます。
本著の内容を問題とした叩きは多いです。

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本の内容において、五味記者が責められるべきではない

元記事と私のまとめを比較して「あれ? 何かおかしくない?」と思った方。
インテリジェンスの才能あります。

実は、同著に記された事実とすり替わって読めます。
同著を読めばわかるのですが、金正男は報道関係者に対しては「報道されることを前提に」メールをしています。
以下、同書から金正男のメール(以下、メール1)を引用します。

10年11月26日
私は五味氏が北朝鮮専門記者だということをよく知っています。そうですから、今まで私とやり取りされたメール内容を百%記事化されてもかまいません。
私が二〇〇四年にもメールを使ったと記憶しますが、記者の方とメールをやり取りする時、その内容の記事化を必ず前提にしています。
会えばもちろん私がもちろん、私がしたい話をするでしょう。東北アジアの平和を望む私たちは同じ心情を共有しています。弟に言いたいことも、もちろんあります。
その他に今までのメール内容、今後会った時のインタビュー内容は全部記事化してもかまいません!

(引用:父・金正日と私 金正男独占告白)

北朝鮮の圧力が掛かってからは政治的な発言を控えるようになっていますが、基本的なスタンスは変わりません。
その上で、次の文章をお読みください。
金正男が出版を控えて欲しいとしたメール(以下、メール2)の内容です。

11年12月31日
北朝鮮では死去後百日は喪に服す期間とされています。この時期に、何か新しいニュースがでると、私の立場が不利になります。ご理解をお願いします。北朝鮮の政権が、私に危険をもたらす可能性もあります。

(引用:同)

メール原文を読むと、金正男の意図するところがはっきりわかるのではないでしょうか?

金正男が嫌がっているのは、「喪に服す時期」に出版されることである。

内容ではなく、時期が逆鱗に触れるとしているのです。

ポスト記事だと、この箇所。

「待ってほしい」と言われた

ここで三代世襲批判など過激な発言はメール1よりも前(10年11月10日)。
つまり金正男が「全部記事化してもかまいません!」と明言した部分です

本著の内容が実際に暗殺の引き金となったかどうか、私には判断できません。
ただ仮に内容が引き金になったとしても、それは金正男の自己責任の問題
金正男本人にとってはささいなことだったのか、危険を押しても伝えたいことだったのか、単に軽率だったのかはわかりませんが。
仮にも一国のプリンスが判断して発言したことに、外野がどうこう言う筋合はないと思います。

だとすれば「こんな本を出版すれば金正男が危険になるのは当たり前だろう」と五味氏を責めるのは御門違いでしょう。

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叩くなら正しく叩くべき

では五味記者は擁護されるべきでしょうか?
私はそうは思いません。
違うのは理由が「内容」でなく「時期」というだけで、金正男が嫌がったのは事実。
つまり、

質問者の写真

自分のエゴを押しつけたのは間違いないからです

 噛み合わない会話

出版の下りを引用します(メール2も再掲します)。

11年12月29日
金正男さま
お父様はたくさんの人に見送られ、幸せに旅立たれたと思います。
ところで私はこの時期に、あなたの考えをまとめて発表しようと思っています。マカオでのインタビューの詳しい内容にメールの内容も含めたものです。
今こそ、北朝鮮の矛盾を訴える時期だと考えました。御理解ください。
葬儀のため平壌には行かれましたか?

11年12月31日
北朝鮮では死去後百日は喪に服す期間とされています。この時期に、何か新しいニュースがでると、私の立場が不利になります。ご理解をお願いします。北朝鮮の政権が、私に危険をもたらす可能性もあります。

12年1月1日
公開するのは、あくまで正男氏が公開してよいとした部分です。
昨年勇気をだされて、北朝鮮の世襲を批判されたことについて、あらためて感謝し、尊敬しています。本当に大変なことでした。私たちは北朝鮮にも、体制への疑問を明確に話す人がいるということに驚き、希望を持ちました。
どんな形でも、我々の縁は続くと思っています。
ところで、今回お父様のことで鴨緑江をお渡りになりましたか?
それとも家で告別式をご覧になりましたか?

引用:上記同

「時期が悪い」→「公開するのは、あくまで正男氏が公開してよいとした部分です」
まるで会話が成り立っていませんが。
もう何を言おうと出版する気満々に感じられます。

しかも手前勝手な返答を押しつけた挙げ句、更なる質問。
相手が金正男であろうとなかろうと不快ですし、非常識に映ります。
次の金正男からの返事で絶縁されてますが、当然でしょう。

それでもしつこく追いかけるなんて(この辺りは文庫版のまえがきに書かれています)。
もう私には振られた女がしつこくしがみつくようにしか見えませんでした。
いや……ひどい扱いしながら、さらに利用しようとするなんて。
みんなが叩く「使い捨て」よりまだひどいと思います。

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私の見解

殺されるかどうかは別としても……。

自分の立場に置き換えてみます。
親が死んで葬式の最中、自分が親を非難した本が出版される。それも狙い澄ましたように。
北朝鮮じゃなくても親戚中から白い目で見られると思いませんか?
金正男は「北朝鮮の政権が、私に危険をもたらす可能性もあります」とまで言っているのだから尚更です。

しかもメールからはどこまで本音か知りませんが、金正男は父金正日を愛している。
その喪中に手記出されれば怒って当然でしょ、人として。
礼儀を欠いているように、私の目には映ります

出版するなと言ってるんじゃない。
待ってくれって言うんだから待てばいいじゃないですか。
100日くらい待てなかったんですか?
ここまで多大な情報を提供してくれた相手に感謝の心はないんですか?

ここは私の想像ですが……
金正男にはもう一人仲よくしていた新聞記者がいました。

http://digital.asahi.com/articles/ASK2H3TCJK2HUHBI00G.html?rm=282(記事削除済)

先を越されるのが怖かったんじゃないですか?
仮に文藝春秋社が出版時期を決めたとしても、NOというのが新聞記者の矜恃じゃないんですか?

五味記者は「THE PAGE」において次の通り語り、火に油を注ぎました。

https://thepage.jp/detail/20170217-00000005-wordleaf リンク切れ

北朝鮮は経済の改革、開放、中国式の改革、開放しか生きる道はないとも言っていました。この発言を報道したり本にしたことで彼が暗殺されたと皆さまがお考えなら、むしろこういう発言で1人の人間を抹殺するという、そちらの方法に焦点が当てられるべきでしょう。

散々身勝手に振る舞っておいて、何を自己正当化して開き直ってるんだ。
これはもう、皆様に全く同意です。

まとめ

金正男が嫌がったのは、著書から示されるのは「出版そのもの」ではなく「時期」。
叩くなら、その点を間違えてはいけない。

しかし五味記者が金正男の意に反して出版を強行したこと自体は間違いない。
全体に見て、礼を失した身勝手なエゴイズムで動いていることも。
金正男がこの本によって殺されたのであろうとなかろうと、五味記者は叩かれるべきだと考えます。

金正男がかわいそう。
これが一連の炎上をめぐる私の結論です。

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本の感想

手短に。

メール部分は読み応えあります。
発言内容が金正男の意思なのか、それとも保護していた中国の意向に従ってなのかはわかりませんが、いずれにしても「金正男が発言した」という事実が重要となりますので。
おすすめできる本であることは間違いないです。

キノコ煮込みに秘密のスパイスを

OBによる公安調査庁のお仕事をリアルに描いたラブコメ&サスペンス。
小説家になろうでは総合ランキングに入ったことのないド底辺のネット小説です。
一方で、
・週刊誌に「日本のスノーデン」呼ばわりでYahoo!ニュースになり。
・偉い作家先生から「乱歩賞獲れたミステリ」と絶賛され。
・出版社では「これを世に出すのは危険」とお蔵入りにされ。
あれこれ曰く付きの小説、あなたも読んでみませんか?
お気に召しましたら拡散していただけると嬉しいです。

天満川鈴
この記事を書いた人

慶應義塾大学商学部卒
1997年公安調査庁にキャリアとして入庁
在職時は国際テロ、北朝鮮を担当
特に現場(スパイ工作)で実績を挙げ庁内表彰を受ける
2004年介護のため退官。

ADHD、精神障害者手帳3級所持。

WordPress記事は素人の備忘録です。

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