「忖度」の悪いイメージを払拭してみる ~「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」より

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2017-03-29インテリジェンス・治安

森友学園問題で急速に浮上した「忖度」。
今年の流行語大賞になりそうな勢いです。

用例1:財務省が安倍首相を忖度して、不当に安く国有地を森友学園へ売却した。
用例2:マスコミが民進党を忖度して、辻元氏の名前を除外した上で籠池氏妻のメールを公開した。

……どう読んでも悪いイメージ。

本記事では、そんな「忖度」の悪いイメージを払拭してみようかと思います。

忖度の用例3

まったく話かわって申し訳ございません。
一昨年8月、私は週刊ポストで「日本のスノーデン」として報道されました。

結果として大宣伝となりましたから御礼を伝えましたし宣伝道具にもしていますが、スノーデン呼ばわりは洒落になってない。
警察からは「名誉毀損で小学館を告訴しませんか?」と言われたほどです。

11月、騒がせたことを謝罪するため公安調査庁へ。
調査第二部長(以下、二部長)と面会しました。
二部長は退官間際、お世話になった人ゆえ会いたかったから丁度いい。

10年以上ぶりの霞ヶ関でした。

以下、会話です。

二部長「報道って何? 私、知らないんだけど」
私  「へ? (週刊ポストの切り抜きを見せる)」
二部長「(読み終える)事情は理解した。小説ならいいんじゃない?」
私  「怒らないんですか?」
二部長「天満川さん、暴露するような人じゃないでしょ」
私  「(胸を撫で下ろす)じゃあ、この小説を出版することになっても公安調査庁が妨害するようなことはありませんね?」

公安調査庁に出向いたのは、この確認をするためでもありました。

実は報道直後、拙作「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」(以下、キノスパ)に出版オファーが来ました。
暴露小説としてではなく、純粋に一般文芸(お仕事ものコメディ)として評価していただけたもの。
しかし企画会議の結果は……「この小説を書籍出版するのは危ない」。

用例3:○○社は公安調査庁を忖度して、キノスパの出版企画を却下した。

もっとも、詳しくは書けませんが当該版元には止むを得ない事情があります。
全く恨んでいませんし、それどころか編集さまからの評価と的確なアドバイスに感謝しています。

そして私自身も「そんなことはない」と返答しきれませんでした。
もし同じ話が来たら、その時のため公安庁に念押ししておく必要がありました。

二部長「表向きはともかく、公安庁が妨害することはない。むしろ個人的には絶対出版すべきと思うし応援する。検事さんはわからないけど、大丈夫でしょ。検事さんだって推理小説書いてる人いるし」
(※公安調査庁の実権を握っているのは検事)
私  「そうなんですか? 名前わかります?」
二部長「いや、直ちには思い出せない。ごめん」

その後は機密に触らない程度で色んな話。
「検事さんの小説家って誰だろ?」と思いつつ、公安調査庁を後にしました。

法務省・検察庁の忖度

1年半経過。
森友学園のニュースを眺めていると、ふとしたことで検事さんの小説家がわかります。

由良秀之こと郷原信郎氏。
テレビドラマ化もされているそうです。

なんでわざわざ「ネットの孤島」と呼ばれるWordPressでブログ書いてるんだろうと不思議になりました。
私だって今始めるなら「はてな」でやるのに。
すごくどうでもいいのですが。

そして、ちょうどこんな記事を書いていました。

せっかくですし、見出しだけですが紹介させていただこうと思います。
私も「法務省」という単位では同意します。
詳しくは元ブログをお読み下さいませ。

①「忖度」は、される方(上位者)にはわからない。

②「忖度」は、行う本人も意識していない場合が多い。

③「忖度」で違法・不当な行為は行われない

④ 官僚は「忖度」で評価される。

公安調査庁における忖度

しかし、外局公安庁となると、かなり事情が違います。

本庁

検事さんに対しては郷原氏の指摘がそのまま当てはまります。

しかしプロパー同士だと忖度の概念がありません
だって業務内容は分析して情報を上げるだけ、シンクタンクと同じですので。
しかも情報機関ゆえ誤解や予断を絶対に混ぜてはいけない。
簡単に、かつはっきりと伝え合います。

喧嘩がないわけじゃありませんが、忖度どうこうを意識した場面はなかった気がします。
(私自身が「天真爛漫」と言われるキャラだったのもありますが)
気風そのものが本省とは全く違います。
そもそも官公庁というより、マスコミや外資の方が近いと思います。

現場

忖度どころか、上司(主に課長)とのバトルです。
なんせスパイ工作ですから公務じゃなければ違法なのはざら。
課長の中には判子を押したがらない人もいます。
「君に一任するよ、信頼しているから」とか「臨機応変!」とか言って。
そんな言葉を真に受けたら、いざというとき全てをなすりつけられます。
なので、あの手この手を使って説得し、判子をつかせます。
当時の上司が「俺達の仕事はどれだけ上手く課長に判子をつかせるかだよ」と言ったときは「本当ですね」と頷き合いました。

ただ、忖度が行われる場合もあります

例えば尾行や聞き込みで敵に見つかって走って逃げた、でも身バレは絶対していない。
こういう時は、ただ「失尾した」とのみ報告します。
報告された課長も扱いに困るからです。

あるいは課長としても本庁からの要請などで渋々命令を出す場合。
実りないのが明らかなら、やった振りだけして「やったけど失敗しました」と報告します。
不祥事のリスクだけ負うのは課長にとっても自身にとってもバカらしいからです。

「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」における忖度

忖度のイメージますます悪くなった?
そんなつもりはなかったのですが……というのは置いといて。
本題に入ります。

「忖度」の定義は以下の通り。

そん‐たく【×忖度】:[名](スル)他人の心をおしはかること。「相手の真意を忖度する」

引用:デジタル大辞泉(コトバンク)

しかし「おしはかる」のは悪い事でしょうか?
私はそう思いません。

もともと私は「忖度」について良いイメージの方があります。

実際に「忖度」という単語をイメージしながら描いたキノスパの一場面が以下。

弥生:主人公、観音:ヒロインかつ上司。
弥生が対象者(=スパイ候補)との初接触を成功させて報告した場面です。

 ──喫煙室。

 昨日の顛末を話し終えると、観音は真剣な面持ちで感想を述べた。

「よくやったな」

「ありがとうございます」

 たった一言。
 でも、一瞬だけ潤んだ青紫の瞳が全てを物語った。
 俺も泣きそうだ。

「CARPにこんな美味しいマルタイがいたとはなあ。私もジムにすればよかったよ」

 白々しい言葉、だけど真意は理解しているので黙る。
 と言うか、顔に出てるよ。
 そのいかにも嬉しそうに上がった口角は何だよ。
 俺の方が恥ずかしくなってくる。

(「13/05/16(1) 横浜喫煙室:仕事でやってるのに料理の味なぞ楽しめるか」)

観音は口でこそ弥生が全部やったことにしていますが、実は観音が舞台をお膳立てしていたもの。
理不尽なパワハラで腐っていた弥生がやる気に目覚めたとき、すぐに動けるようにこっそりと。
もし目覚めなければ無駄に終わるのを覚悟の上で。

弥生もまた、観音の導きあってなのはわかっています。
しかしここで茶々を入れたら、弥生を信じて待った観音の志を無にすることとなる。
また観音は「弥生が全て自分の力で仕事を成功させた」ことにしようとしている。
弥生はその真意をおしはかって黙っているわけです。

これもまた「忖度」ではないでしょうか?

最後に

公安調査庁ラブコメミステリ「キノコ煮込みに秘密のスパイスを」。
よろしければ、お読みいただけると嬉しいです。