「公安調査庁国際テロ担当が『イスラム教に改宗』大騒動」週刊ポスト報道についての同庁元職員の所感

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2017-06-22インテリジェンス・治安

本記事は週刊ポスト2017年1月27日号「公安調査庁国際テロ担当が『イスラム教に改宗』大騒動」につき、元同庁職員が見解を述べたものです。
半年も経ってからのアップなのは、当時WordPress関係の記事作りに夢中になっていまして、書いたまますっかり忘れていたものです……。

「大騒動」というのは明らかに盛ってるでしょうが、珍しい人事であることは間違いないです。
(盛ってなかったようです^^;)
なお、私は内部から話を聞いているわけではありません。
あくまでも推測に基づくものです。

記事の概要

この記事は誌面のみで、ネットにはアップされていません。
(誌面のコピーはアップされているので、興味ある方はお探しください)
ざっくり言うと、次の通り。

公安調査庁(公安庁)の支局である関東公安調査局(関東局)の国際テロ担当職員がイスラム教に改宗したため左遷された

職員はAとしましょう。

Aのポストは専門官。
記事は「課長級」となっていますが実際には課長補佐級。誤りです。
霞ヶ関言うところの総括課長補佐or筆頭課長補佐にあたります。

専門官は課で金の管理や実質的な指揮をとる「番頭」と呼ぶべきポスト。
関東局の専門官ですと、次のポストは他事務所の首席(=課長級)。
ノンキャリアとしては主流に近い位置にいますし、かなり強い影響力を持っています。
本質から外れるほどの誤りというわけでもありません。
記事をわかりやすくするため言い換えたor盛ったのでしょう。

事案は、Aが駐在官室の統括に異動させられたというもの。
駐在官室は、事務所がなく業務の必要があるところに置かれます。
恐らく多摩でしょう。
統括は課長補佐級のポスト。
公安庁のポストはややこしいのですが、現場(=地方局・事務所)ですと以下のようになります。

首席(課長)、専門官(筆頭or総括課長補佐)、統括(課長補佐)、上席(係長)、主任(ヒラ)、役無し

現場では専門官と統括の間に明らかな一線が置かれています(本庁基準だと、どちらも課長補佐クラスで同等となる)。
関東局の専門官>駐在官室の統括は明白ですので左遷なのは間違いありません。
それもテロ→国内ですから、状況を合わせると記事の通り隔離の意味合いが強いでしょう。

意外という感想、その根拠

この記事の見出しを見た私の第一印象。

質問者の写真

えっ!? どうして?
 

信教の自由があるから、なんて理由ではありません。
関東局の国際テロ部門でイスラム教に入信するのは割と当たり前の感覚でみられていたからです

例えば私の同期でも関東局国際テロ部門でイスラム名を持った人がいました。
他にも入信したのが数名いたような。
もちろん本気で改宗したわけじゃありません。
ムスリム・コミュニティに入り込むなら宗徒となった方がやりやすいからです。
いわば「似非ムスリム」。
みんな「うさんくせえ」とゲラゲラ笑うほどには庁内で常識と言いうる感覚でした。

正直言うと、私は好ましくないとみていた側。
本来は記事に書かれた通りドイツのBfV(憲法擁護庁)の事件みたいなのを考えるのが筋です。
BfVの事件についてはこちら。

記事には次の通り書かれています。

庁内の職員に布教をしているとの情報もある

(引用同)

熱心ぶりがうかがえます。
似非では無く、本気で改宗してしまったのでしょう。

処分の検討

事なかれ主義の幹部が”入信自体はいかんともしがたいから”と配置転換したようです。

(週刊ポスト同記事から引用)

入信自体いかんともしがたいというのはわかります。
日本では公安職にあっても信教の自由を制限していないので憲法訴訟に発展しかねませんから。

配転(左遷)もわかります。
専門官クラスに「礼拝行こうぜ、調査にもなるからさ」とか言われたら、その下は断れません。
望んでもないのに説法かまされてもうざったいだけ。
いわば布教活動という名のパワハラにあたります(イスラム教に限らず、他宗教でも同じですが)。
まして彼に続く改宗者が現れたら組織活動に悪影響を及ぼしかねません。
年度途中というのも、それだけの緊急性はあるでしょう。

しかし降格はかなり珍しいです。
降格を伴うくらい重いなら通常は懲戒免職(自己都合退職含む)が先にきますので。
これははBfVの事件が影響しているのではないでしょうか。
公安庁とBfVは機関の性質面から並べて挙げられることが多いですし、仲もいいですから。
上層部はそれだけ事態を重く見たということでしょう。

今回の処分は職員達から「事なかれ」と映るかもしれません。
でも、これがオウム真理教だったらどうか?
誰もが当然の処分だと思うはずです。

オウム真理教は調査対象団体ですがイスラム教はそれ自体が調査対象団体というわけではありません。
確かにその違いはあります。
イスラム教全てが危険というわけではないし、ムスリム全員がテロリストというわけではない。
このことは理解しておくべき事項です。
でも、世間は「イスラム=テロ」と連想する傾向にあるのが現実。
そして、どうして公安庁や警察が日本国内のムスリムや団体を調べるのか。
そのこともまた、しっかりと認識しておくべきです。

まとめ

改宗はともかくとして国際テロやるならイスラム教を勉強するのは当然です。
対象の行動原理が理解できないと分析はできませんし。
ある程度共感を訴えないと工作はできませんし。

しかし度が過ぎてミイラ取りがミイラになるのは、やはりまずい。
常にもう一人の自分を別においてコントロールしないと。
私は、情報機関員は私生活を厳しく律されて当然と考える立場。
仮に信教の自由などの基本的人権を制限されたとしても、それで当然だと考えます。

週刊ポストの同記事は冒頭で次の通り書いています。

わが国のインテリジェンスの要である公安調査庁

(引用同)

マスコミからは右寄りだろうと左寄りだろうとひたすら叩かれるのが公安庁。
こんな好意的な表現を使ってくれるメディアはあまりないわけで。
また、こんな小さな話が大手週刊誌の記事として扱われるだけの存在になっている。
その目を意識し、職員には慎んだ行動を。
上層部には「要」と呼ばれるに相応しいだけの体制作りを目指して欲しいものだと思います。