平成29年度「内外情勢の回顧と展望」で公安調査庁が中国諜報活動の脅威を指摘した件について

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2016-12-26インテリジェンス・治安

公安調査庁のある法務合同庁舎
公安調査庁のある法務合同庁舎

本記事は、公安調査庁が「内外情勢の回顧と展望」において中国による諜報活動の脅威を指摘した件と、その周辺の話について、元公安調査庁職員が見解を述べるものです。

公安調査庁の平成29年「内外情勢の回顧と展望」の内容が話題に

公安調査庁(以下、公安庁)は、12月22日、平成29年度「内外情勢の回顧と展望」を公表しました。

サイバー攻撃手法が多様化 警戒強化を 公安調査庁 | NHKニュース

(削除済)

特に、次の内容が注目を集めました。

このほか在日アメリカ軍基地が集中する沖縄県をめぐり、中国の大学やシンクタンクが、沖縄の独立を求める団体の関係者と交流を深めているとしたうえで「中国に有利な世論を沖縄でつくることによって日本国内の分断を図る狙いが潜んでいると見られる」と注意を喚起しています。

これにリテラが反応。

(リテラを知らない方へ。左翼系WEBニュースサイトと捉えて下さい)

詳しくは同記事を直接お読み下さい……と言いたいところですが。
タイトルだけでどんなことが書いてあるかは想像つくと思います。
もうボロクソに叩きまくっています。

元公安調査官としての驚き「こんなこと公表するなんて!」

私はリテラの記事で知ったのですが、読んだ瞬間驚きました。

リテラが叩いたことではありません。
そこは、もう当たり前ですから。
私ももう当事者じゃありませんし、むしろ面白がって読んでいます。
リテラは「噂の真相」の系譜を継ぐサイトですが、私は同誌が大好きでしたので。

ニュースの内容にでもありません。

外国勢力が国内左翼と結託し、日本政府への妨害活動を繰り広げている。
これは公安庁どうのではなく「事実」です。

実際に私自身、北朝鮮担当時代はそうした勢力の動きを追っていましたので。

日本の左翼と韓国の反政府勢力(公安庁内では「反韓団体」と呼んでいます)が手を結び、背後から北朝鮮が援助しているという構図。
いわゆる「敵の敵は味方」というやつです。
私と情報を共有して一緒に動いていたのは韓国軍。
公安庁がネトウヨなら、韓国軍もネトウヨでいいでしょう。

私が驚いたのは、

公安調査庁が、こんな生臭い話を公然と発表したことです。

私の知る公安庁では決してありえないことでしたから。

「内外情勢の回顧と展望」について

「内外情勢の回顧と展望」とは?

まず、「内外情勢の回顧と展望」とは何ぞや。
そこから説明します。

「内外情勢の回顧と展望」は、公安調査庁が毎年公表している資料。
その年における国内・海外の公安情勢をとりまとめたものです。
内部では「回展」と略されています。

一般公表するくらいですから大したことは書いていません。
基本はマスコミ報道や文献などの公然情報から得た情報に限定しています。
(もちろんそのまま載せるのではなく、裏付けをとってますし分析も経ています)

では全く役に立たないか?
私はそうは思いません。

一般国民が公安情勢を知るには過不足なく、客観的に書かれています。
特にここ数年のはレイアウトや構成にも配慮していると思います。
色々考えて作っているんだろうなあって。
国民が全てを知る必要はないですし、聞いたところでわからないでしょう。
国民にわかりやすく公安情勢を伝える。
その目的において、よくできていると思います。

回展には「表」と「裏」がある

世間では回展を採り上げて「こんなことしか書けないなんて、『公調』って本当に能無しだよな」という声もあります。
(わざわざ「公調」とカッコ書きしているのは意味があります)

実は回展には「表」と「裏」があります。

「表」はあくまで一般国民向けのパンフレット。
印刷したら数十枚。
治安関係者にとって毒にも薬にもならない代物なのは、出している公安庁自身がわかっています。
そもそも「一般人向けにわかりやすく」という目的で発行しているもの。
それで「こんな仕事しかしていないのか」と言われてもという感じです。

一方、「裏」は非公然情報を中心にとりまとめたもの
非公然情報とは、送り込んだり動かしたり裏切らせたりしたスパイ達から得た情報。
こちらは「経済白書」に匹敵する分厚さ。
本の角で殴ったら痛いです。
この「裏回展」の方が、公安調査庁の本当の仕事です。

ただ裏の方は「極秘」が押された代物。
ほとんど外に出ることはありません。

「じゃあ何のために作ってるんだ」と言われたら身も蓋もありませんが……。

非公然情報は実にナイーブ。
知っている人自体が限られますから、場合によっては情報源が誰だかバレてしまいます。
何より情報機関自体、沈黙こそが義務であり美徳。
機密保全の観点からはもちろん、「情報機関は政治的に中立であるべし」というのがインテリジェンスにおける基本姿勢とされています。
とにかく黙るしかないのです。

なお、真の機密情報は裏回展にすら載りません。
漏洩する職員達が当たり前にいますので。
公安庁のそういう脇の甘いところこそ、左翼はもっと叩けよと思います。

私が公表するなんてありえないと思っていた理由

3つあります。

1 公安庁による今回の指摘は、本来「裏」で書かれるものだから

まず間違いなく非公然情報に基づくものですから。

ただ、これについては、恐らく情報源が複数なのでしょう。
そうであれば協力者の安全を守れますから。
同時に、それだけの裏がとれているということでもありますし。

2 国内左翼と中国・北朝鮮の連携自体が、一般国民に報せてはならない話だから

私が公安庁にいた頃の同庁の認識は、

「国内左翼と中国・北朝鮮が連携して政府を脅かそうとしている」なんて言っても、きっと国民には信じてもらえない。

「ネトウヨの妄想」
リテラじゃありませんが、残念ながらそれが国民の常識ではないかと思います。

どうせ信じてもらえないし、叩かれるだけ。あるいは無視される。
いえ、信じてもらえたとしてもです。
それならそれで社会が炎上して混乱に陥る可能性だってあります。
安寧と平穏を守るべき政府機関が自ら踏みにじってどうするという話になりますから。
それが私のいた頃の公安庁の認識でした。

しかし世の中には妄想扱いされていても真実だった話などざらにあります。
北朝鮮による日本人拉致はその典型。
庁内で事件当時の調査資料を見たとき、それが手書きであったことにしみじみしたものでした。

つまりは、こうした生臭い話を公然と発表できるくらいに世の中が変わったのかなと。
言い換えれば「当たり前の社会」になったということでしょう。

3 分析が外れた時のリスクが大きいから

今回の指摘が事実かどうか、私には判断できません。

といっても「表回展」という性質上、かなり確度の高い情報。
私の経験から言うと、公安庁にしてみれば「事実」と言い切れるくらいの判断をした情報です。

公安庁の分析能力につき、青木理氏はリテラで次の通り叩いています。

適当な情報を上げても外部の検証を受けることもないから、いい加減な情報が飛び交う。これまで公安調査庁のガセネタでどれだけの新聞や週刊誌が誤報をとばしてきたか(笑)

逆です。
いい加減な情報だからこそマスコミに流れるんですよ(笑)
わざとマスコミに流して動いてもらうというやつです。
裏がとれている話ならリークなんてせず、ちゃんと決裁に出します。
その方が現場なら本庁から、本庁なら官邸から、お褒めの言葉をいただけるんですから。

公安庁の分析における問題点はそういうところじゃない。
むしろ組織病と呼ぶべきものです。

役所という組織は「失敗」とか「間違い」を非常に嫌います。
公安庁も、その類に漏れません。
昔の公安庁の分析書はひどいものでした。

Aかもしれない、もしかしたらBだろう、でもCなのも否定できない

実際には「Aで間違いない」と分析していても、こんな感じで結論を避けて逃げ道を作ります。
間違っていたら責任をとらされるからです。
ただ、現在は官邸から「間違っていてもいいから、ちゃんと書け」と指示されたのもあって、

「ほぼAである」

と言い切るようになりました(もちろん、そういう判断をしていることが前提です)。
「ほぼ」というのは、自分の目で見ていないものを真実と断定できないからです。

しかし官邸との関係はそれでよしとして、国民との関係では「書かない」という選択肢があります。
報せなければそれでいいだけの話ですから。
でも書いた。
その背景には、かなりの裏付けがあるのだと思います。

それでも書かないのが私の知る公安庁なんですけどね。
変わったものだと、つくづく思います。

今回の指摘に何かの思惑があるのか?

さて、左翼界隈だけでなくネット民の反応もなかなか。

公安調査庁が注意喚起「中国に有利な世論を沖縄でつくることで日本国内の分断を図る狙い」 ! : 軍事・ミリタリー速報☆彡

公安が言及するなんてすごい

私すらそうであるのは、ここまで述べてきた通りです。

しかし、なぜ公表したのか?
これについて検討してみたいと思います。

組織の生存を図る?

青木理氏の言い分

リテラから青木氏の言い分を引用しましょう。

「危機を煽らなければ、自分たちの存在意義がなくなり、予算や人員も減らされてしまう。だから毎年発表する『内外情勢の回顧と展望』なる報告書などでは、必死になって危機を煽るわけです。オウムの危険性などには事前にまったく気づかなかったくせに、事件が終わって壊滅状態になってから『危ない、危ない』と言い続けているのは典型例。質の悪い狼少年みたいなものです。今回も、安倍政権が敵視する沖縄に目をつけ、自分たちの組織維持に利用し始めたということでしょう」

まず、引用以外の全文を通じて、いつの時代の話をしてるんだか。
それこそ私が採用された頃の話なんですが。

公安庁は上から下まで、そんなの考えてません。
野心はないですし、危機感もありません。
だって実際にマネジメントしているのは本省の検事さん達。
プロパーには関係のない話ですから。

野心を源泉に動いたのは菅沼光弘元調査第二部長が最初で最後。
未だに、その感覚で語られてもなあって感じです。

実際の公安庁は国家安全保障会議(NSC)の補佐級ポストもらえただけで大喜び。
微笑ましいというか、何というか。
警察と外務の主導権争いに割って入るなんて、とてもとても。
それくらいにささやか望みしか公安庁プロパーは抱いてません。
良くも悪くも、それが公安庁の伝統ですので。

私の言い分

公安庁は何も考えていません。
ただ情報が判明したから公表しただけです。

背景として、公表しても社会が受け容れてくれる時代に変わった。
だったら中国も左翼も危ないから国民に教えてあげよう。
ただそれだけです。

公安庁は政策官庁ではなく情報官庁。
何のしがらみもなく、政権中枢に情報を上げられるのが大きな長所です。
これが政策や所管業界を意識せざるを得ない警察・外務・防衛と大きく異なる点。
そして、各官庁から嫌われる点です。

つまり、いわゆる空気嫁。

自分達の都合で情報ねじ曲げるおまえらこそどうなんだって感じですけどね。
それが国民のためならまだしも、単なる省益や保身ですから。

まとめ

今回の公表内容は驚くことではありません。
公表したということ自体が驚くべきことです。

今回の指摘が事実かどうか、私は知りませんし判断もできません。
しかし国内左翼が中国や北朝鮮と結託しているのは事実です。

私はもはや退職した身。
公安庁がどうなろうと知ったことではありません。

しかし在職時、私はそうした事実を知りながら国民に伝えられなかったことにつき忸怩たる思いでいました。
その点において、公安庁の今回の公表には溜飲をさげさせてもらいました。
そしてようやく、みんなに信じてもらえる時代が到来したなって。

敵性国家と左翼団体の実態に御理解いただける方。
どうか昔の同僚達が頑張れるよう、応援していただけたらと願います。